29話 アラビアン戦争
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3460年8月20日 オーマン台国第三の都市、アダナ。石でできた白い建造物が無数にある。そして、昼時は人でごった返すメイン・ロードも今は早朝。人影はなく、ひっそりとしている。最も、郊外の山地は標高が高い事もあり、冷えた霧がたちこめ、音も無いほどの静まりようだ。 アダナは海と川に面する港町。そして、北にはメディタ・レイニアンに流れるアダナ川。東にペルシアン・シーに流れるユーフラテス川、南にはシリアの森があり、更に行くと広大なアラビア砂漠が広がっている。 と、空から鳥が羽ばたくような音が聞こえてきた。そして、北の方から大勢の人の足を鳴らす音が聞こえてきた。 空の集団は地上に降り、その数秒後に陸から来た集団もその前で止まった。 2つの集団は見合い、その中から一人ずつ、2つの集団の間へと歩む。 「オーマン中立軍司令官、オッドルマスト」 「SPE隊長、サフィア」 2人は顔を確かめ合うと、かたい握手を交わした。 「時間は少ない早めに行くとしよう」 オッドルは右手を振り上げる。すると、前方の兵士から順に掛け声をかけて規則正しい足音を立て南に行進する。 「よし、じゃあ俺たちも行くか」 サフィアがそう言うと隊員はスッと進みだす。ほぼ同じ動き、間隔だ。 「さすが宇宙警察。訓練が施されている。掛け声なしてこんなに美しいとは」 オッドルは感心している。 「行進なんて初めてですよ。行進なんて、チームワークが完璧なら自然と合うものだと私は思っています」 サフィアが隊列を遠い目で見ながら言った。 オッドルはほほうと声を上げた。つまり、SPEのチームワークは完璧…と言う訳か。 2人は、2つの隊列の一番うしろについた。もちろん、サフィアの足も手も前の隊員と同じ動きである。オッドルはあまりの正確さに身震いした。
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太陽はちょうどこの一師団の真上からぎらぎらと水分を奪っている。途中めまいを起こす者もいた。やはり夏の太陽は強敵である。 疎らだった木々が進むにつれて徐々に増え、今ではどこを見てもジメジメした林のようなところに部隊はいる。 「ここからシリアだ。ここ一帯はアダナと違って集落が点々とあるだけであとは森だ。ここから小隊(30〜60の小集団)に分かれて南東へずっと進め。すると城壁がある。そこで待機していろ。小隊長はコンパスや地図、ランプなどを配る。それとバーダー、わかってると思うが君たちは空を飛ばずに皆と一緒に森の中を進みたまえ。敵に見つかると我々も困るからな」 サフィアは第1小隊に所属する事になり(司令官ソフィヤも同様)、小隊長はココ=アル・イツォーヘル軍曹だ。 「ここではお前がリーダーだ。だから、これから俺もソフィヤもお前に敬意を表す。次言うときはもうお前なんか言わない。イツォーヘル軍曹と呼ぶ」 サフィアは片膝をつき、敬意を表した。ソフィヤも続いてひざまずく。 「うむ。では私も君たちをサフィア、ソフィヤと言う。必ず生きて鳥の国に帰ろう」 ココ=アルは鋭い目で2人を見て言った。 彼なら、無事この森を抜けることができるだろう…サフィアはそう思った。
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そろそろ夕暮れ時、森はすでにランプをつけないと一寸先も見えない闇である。しかも、ランプをつけても数メートル先しか明かりは届かず、猛獣が忍び寄っても分からない状況である。 この真っ暗な中、小隊長は止まった。 「…このまま進んでも集落はないし迷うだけだ。ここで野宿をしよう。他の小隊もすでにそうしている」 ココ=アルは背負っているリュックから寝袋を出した。他の者も後に続く。寝袋ははじめ握りこぶし大の大きさだったが、広げると想像以上に大きなものとなった。昔の時代の名残として物体拡張装置の働きだ。 「寝るぞ。見張りは2人ずつ、1時間交代だ。最初はサフィアとソフィヤ。次は私とメディアだ。出発は4時から。各自、食事と水分補給はやっておくように」 そう言うと、ココ=アルは眠りについた。この眠る速さと瞬時に目覚める力こそ軍人には必要なのだ。
サフィアとソフィヤはランプを片手に巡回を始めて20分が経った。 闇をずっと見つめていると気がおかしそうになり、ランプの赤い光が目を痛める。 その闇の中、サフィアは後ろからの気配を感じた。 瞬時にランプを近づけるとそれはソフィヤだと言う事に気がつき力が抜けた。 「なんだ。ソフィヤか。ソフィヤはあっちの方の見回りだろ?しっかりしろよ」 サフィアは軽くあしらう。 「なんか、とっても怖いの。凄く怖い。暗いとかじゃなくて、これからの事が…」 「DDD…きっとまた戦うんだからな。それに、あいつらは俺らに恐怖を与え続けた。君の父さんを殺し、U-Pu2でフェリスターを滅ぼし、俺たちをも死にかけた。怖くて当たり前だよな」 サフィアはさっきの口調とは変わってとても優しくなっていた。 「うん…」ソフィヤはソワソワと言う。 「なあソフィヤ」 「な、何?」 サフィアの真剣そうな呼びかけに―暗いせいもあるだろう―ソフィヤはドキッとした。 「あのさ…俺、ずっと思ってたんだ」 こ、このシチュエーションは…!ソフィヤの鼓動は高鳴った。 「ずっと思ってたんだけど…DDDってほんとはいい奴らなんじゃないかな」 …ソフィヤがずっこけた。 「ちょ、ちょっと!何馬鹿なこと言ってんのよ!」 「静かに!起きちまうよ」サフィアが人差し指を鼻に擦りつけながら言う。 「あ…DDDは悪そのものよ」ソフィヤが静かに言った。 「そりゃ知ってるさ。DDDは悪の化身。最低最悪の帝国さ。でもDDDがこんなに悪に染まったのには理由があると思うんだ。俺はそれを知ってるかもしれないし知らないかもしれない。でも、どっちにしろDDDの過去を知ればなんか分かるかもな。…死ぬのが怖いのか?そりゃ誰だって怖いさ。だから死を恐れないドロイドを恐れるんだ。でも、ドロイドだって死を恐れる。ほら、DDD星でシャスナと鏡のシャスナが突進してきた時、ドロイドは一瞬逃げただろ?死にたくなかったからさ。そう思うと、気持ちが楽になるんじゃないか?俺もそうやって気持ちを落ち着かせたよ」 しばらく無言の時が過ぎる。ソフィヤは彼の横顔をじっと見つめた。私はあなたを見つめれば焦りを落ち着かせてきたんだよ。そう思うと彼女の頬が赤くなった。 「なあソフィヤ」 「な、何?」 またの展開に彼女は期待する。 「俺、ソフィヤのこと、ソフィヤのこと、す…」 きた、きたー!彼女は彼をじっと見つめているが心臓ははちきれんばかりになっている。 「ソフィヤのこと、す…凄いなって思う」 …ソフィヤがまたもやずっこけた。 「な、何で?」ソフィヤは苦笑いを隠しながら言う。 「鳥神として、司令官としてよくこんなに頑張れるよな」 サフィアはどこか遠い所を見つめている。 「そ、そりゃ、私一人だったらもう廃人になってるわよ。私にはこの人がいるから頑張れるって人がいるから今までやってこれたの」 「それは誰だい?」 サフィアが瞬時に振り向いた。 「え?あ、それはそのっ!」 サフィアが急にこっちを向いたのでソフィヤは焦りだした。 「おいおい、見張りはどうしたんだ?今日は林間学校じゃないんだ。しっかりやれ」 ココ=アルが暗闇―みんながいる寝床―から出てきた。隣にはメディアらしき人もいる。 「イ、イツォーヘル軍曹!もう交代ですか?」 サフィアが瞬時に敬礼して言う。 「そうだ。俺と言う時計は結構正確だからな。早く寝ろ。次に起きるときはすぐ移動だ。あらかじめ準備しておけ」 軍曹のお説教はそれで終わった。彼とメディアは一言二言言葉を交わすと別行動をとり始めた。 「じゃあ…寝るか」 サフィアはソフィヤに呟いた。 「そうね」 2人は別々の寝袋の方へ行き、その中に入った。 サフィアはソフィヤの言ってた人が誰かを考えていた。 ソフィヤはサフィアの姿を思っていた。 そして、2人はほとんど同時に寝息を立てるのであった。
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朝。 4時と言う早い時刻にも関わらず朝焼けはすでに終わり、太陽はもう白く光り輝いていた。ただし、暗くてジメジメしている樹海の中では熱帯夜とほとんど変わらなかった。 SPE総合部隊第一小隊は永遠に続きそうなぬかるんでいる森の迷路を南東へと進んでいる。 湧き水があればそこで休憩し、水をボトルと水筒に溜めてまた歩き始める。これの繰り返しだ。 景色は幹の茶色とツタやコケの深緑色の2色しかないと言っても過言ではない殺風景だ。森林浴は体に良いと言うが、何日もずっと森林浴をするのは体に悪影響を与える…サフィアは身に染みて分かった。 こうして、また夜が来た。 夜、見回りは無かったのでぐっすり眠る事ができた。明日も殺風景しか見ないだろう。それに、アダナからイラクまで最短で400km。森林の中を進むのだ。出発からイラク到着まで20日間。9月9日に到着する予定である。あと19か18日。これでは心と体が持たない。 日に日に隊員の休息時の口数が減ってきた。そして、感情が無くなってきた。さらにチームワークが乱れ始めてきた。 「空…空を見たい」「地平線を見てえよぉ!」「風を…誰か風を我に!!!」 小隊長のココ=アルもやつれはじめている。 こうしているうちに三日過ぎ、五日が過ぎ、幾日が過ぎた時、前方が眩しいほど明るくなった。隊員は歓声を上げてその光向かって走り出した。そして、目に映ったのは地平線まで続く白い砂とポリスを囲む城壁のようなものがあった。 「ここが…イラクなのか?ついに…着いたのか!」 この約20日間の苦労がここにあったのか、と思うと心が和んだ。 「いや、まだだ。我々は失踪事件を調べるためにここまで来たんだ。そして、これからは戦闘が行われる可能性があるはずだ。油断は禁物だ」 ココ=アルがみんなに言う。任務の目的を思い出させるために。 しばらくするとゾロゾロと小集団がシリアの森から抜け出てきた。皆嬉しそうだ。 「サフィア、そしてソフィヤ」軍曹が呼んだ「これからはまた一部隊として動くだろう。もう私は君たちの上ではない。これからは隊長、司令官と呼ばせていただく」 「ああ、イツォーヘル、今までありがとう。君はいい隊員だ」 2人はかたく握手を交わした。
「サフィア殿、これからは戦場である」 城壁の上に立つオッドル・マストが同じく上にいるサフィアに問いかける。前方にはSPEの隊員と中立軍の兵士が進軍している。 「そうですね。これからは…塹壕を掘りながら行きますか?」 「…スピードと安全、どちらも今はとりたい。食料が早くに尽きるのは非常に危険なことだ。できるかぎり歩いて進みたい」 オッドルは眉間にしわを寄せた。 「…敵は強い、塹壕を掘るには時間が掛かる。敵を見つけて1時間以内に塹壕を完成させないとそれはそれで危険です」 サフィアが反論する。DDDと戦ってきたからの反論だ。 「それほど言うのなら……しかし、食料が無くなるのは辛い。水もすぐに尽きてしまう。……塹壕を作る兵を増やすのがいいのでは?」 「サフィア隊長、オッドル司令官、そんな心配より前方を見て下さい」 トーチカから双眼鏡で砂漠を覗いているソフィヤが鋭く言った。 2人は前方城壁を越えて遙か彼方に広がる砂漠を見た。一見何もないように思う。 「ソフィヤ、双眼鏡を」サフィアが彼女に指示する。 彼女は言われた通り双眼鏡を手渡すとサフィアはそれを覗いた。 「…ドロイドとカンパンマンの波がこっちに来る」 「なんだと!」オッドルは目を丸くした「ではやむを得ぬ、塹壕を」 「ああ。全員、戦闘準備!塹壕…掘れ!」 サフィアが大声で2つの部隊に命じた。 すると彼らは背負っていたシャベルを組み立て、ハイスピードで砂漠の砂を掘り始めた。しかし、砂漠の砂は乾燥してすくってもすくっても砂が流れてなかなか穴が掘れない。苦戦をしていても敵軍隊は屍のような行進をしながら徐々に距離を短くしてくる。 ソフィヤは城壁に上がり、手を大きく広げて唱える。 「砂の精霊よ、水の精霊よ、砂はまとまり、土となれ!ウテクンナディッティ!」 彼女が呪文を唱えると砂はみるみるうちに土になった。土はスコップですくえるようになった。 「ソ、ソフィヤ…お前こんな事ができたのか!?」 サフィアは驚きを隠せない。 「ええ。鳥神を引き継ぐ者に与えられるこのスピリットブレスは(と、腕に付いたブレスレッドを指す)たくさんの呪文を使うことが出来るのよ」 ソフィヤは胸を張って言った。 「第五次世界大戦のころあった幻想社会の生き残り…確かそれはすでに滅びたはずだが?」 オッドルは首をかしげた。 「言っておきますが、バーダーは他の人と一味違うのよ。地底の人たちもそうだけど」 ソフィヤは得意気だ。 そういっている間にも塹壕はほぼできあがった。このシャベル、特殊な装置が付いているので作業が早く進むのである。 「我々も行きますか。ここでは敵軍の的ですからな」 司令官一同は城壁を降り、みんなが作っている塹壕の中へと乗り込んだ。敵連合軍はもうすぐ射程距離に入る。
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連合部隊は塹壕ができあがると半分はシャベルをしまい、レーザー・ライフルを取り出し、一斉に銃口を敵軍に向けた。もう半分はそのまま塹壕を掘り、それを前へと伸ばす。 その数分後だった。敵ドロイド…レーザー銃を使うスティックストライクとレーザー砲を装備しているポニードラゴンの一斉射撃が始まった。 レーザーは糸のように伸び、連合部隊の頭上を過ぎる。 「凄い…塹壕ってこんなに安全なんだな」兵士の一人が呟いた。 「良いか、まだだ。指示があるまで撃つんじゃないぞ」マスト司令官が忠告する。 ポニードラゴンはレーザーを連射しながら突っ込んでくる。 「銃構え!一斉射撃始め!」 通信兵がトランシーバー向かって叫んだ。その電信は連合部隊全員の耳についている小型スピーカーにつながっていて、これによって銃を構える隊員や兵士はポニードラゴンにレーザーを浴びさせるのだ。餌食となったポニードラゴンは雄叫びのような声を上げ、気持ち悪い液体を飛ばして爆発した。 続けてオーマン中立軍の砲兵が砲身長2m第2レーザー対人砲が後方にいるドロイドとカンパンマン連合軍に向かって発射された。瞬きよりも速いエネルギーの塊が敵連合軍付近にぶつかり、砂が水蒸気爆発の如く撒きあがる。 塹壕内はもうレーザーが発する悲鳴のような声で埋まっている。しかし、いくらレーザーがうなろうと敵連合軍はひるむことなく前進をしている。 「ソ、ソフィヤ…なんかつかえる呪文ないのかよ!」 サフィアが必死に言う。ちなみにサフィアやソフィヤたち司令官は一番後方の司令部にいる。 「全く、女の子に頼っちゃって…。まあいいわ、私だって早く進みたいもの。サフィア、援護して」 「はあ…わかった。ありがとう」 2人は司令部を出て塹壕を前へ前へと歩いた。そして、塹壕の先っぽに着くとソフィヤは両手を広げる。 「大地の精霊よ、波打ち、襲え!グレイヴ!」 ソフィヤが唱えると砂漠の大地ははじめザワッと身震いし、うねりはじめた。それは巨大なビッグウェーブとなり敵を飲み込んだ。 「やった!」サフィアや他の兵士や隊員が歓喜を発したころ、ドロイドカンパンマン後方部隊が前進を始めた。 「どうやら…呪文の届く距離より遠くにもてっ…敵がいたのね」 ソフィヤが咳き込みながら言った。 「じゃあ…もう一度!」サフィアが急かす。 「無理よ!あんな強力な呪文…一日一回が限度よ。繰り返しやったら私が死んじゃう」 確かにそうか…とサフィアは思った。ソフィヤが死んだら鳥神の血は途絶え、事実上鳥人‘王国’は滅びる。 「そうか…。じゃあ一度司令部へ戻ろう」 彼はソフィヤの肩を担いで司令部へと向かった。
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今日は9月23日。戦闘勃発から13日が経った。 戦闘はまだ続いており、塹壕戦は長期戦になると身に染みた。塹壕は掘り始めた地点から1q進んだ。敵軍との距離約200m。この距離を保ちながら敵軍は前進後退を繰り返している。 食料はほとんどなくなり、昼は60度を上回る灼熱地獄、水はほぼそこをついている。夜は氷点下の極寒地獄。温度の急変で体調を崩したり死者が出たりするのは当然の事だ。そのためかオーマン中立軍の戦意が喪失している。所々で集団脱走が相次ぎ、彼らのほとんどはシリアの森で力尽きた。SPE隊員は死んだ仲間の分まで戦う決意がある。何よりチームを裏切ってしまう事を恐れて必死に戦っている。もし誰かが戦意喪失する時があるのならその時はSPE全員が戦意喪失しているときだろう。 「弾はあとどのくらいだ!早く替え弾を!」 砲身長1.5m第2レーザー対人ガトリング砲の弾を切らしたオーマン中立軍の生き残り砲手の怒声が響いた。 「もう残りはエネルギー缶(レーザー弾が圧縮されたドラム缶程の大きさ)50本ほどになりました!」 砲兵がエネルギー缶を2本持ってきながら叫んだ。 レーザー・ライフル用の弾がこもっている装弾数100エネルギー・シリンダーは残り1000本となった。連合軍は現在3000人。こちらも底はつきはじめている。 戦場での苦痛は司令部の苦痛でもあった。 「ソフィヤ、最近グレイヴ…使ってないよな。今こそ使うべきなんじゃないか?」 サフィアは頭を抱えているソフィヤに訊いた。 「無理…なの。あれは3km以上離れてないと無理なの。それに…お腹が減って」 「力が出ない…と言う事か。無理もないな。こんな食糧難初めてだし」 そして、彼もソフィヤ同様頭を抱えたのであった。 「皆さん!大変です!G-96地点に突撃したショートナイトとオクトスパイダーによって穴が開きました!しかもショートナイトのマントはバリアになっていて穴が塞げず、広がる一方です!」 司令部にいきなり乗り込んできた中立軍兵士が叫んだ。 「それはまことか!?」 オッドルが身を乗り出した。 「俺が止めてくる!」サフィアが叫ぶ「お前、案内しろ」 「了解…クケ」 彼はカクカク敬礼した。 「…戦闘中敬礼は禁止のはずだ!‘スパイ!’」 サフィアは敬礼した兵士をフェニックソードで真っ二つにした。司令部の数人が悲鳴をあげた。 「…彼はカンパンマン。敵軍のザコだが変身する。司令部はソフィヤが守ってくれ」 サフィアはそう言い残すとG-96へと向かった。斬られた兵士は蒸気を上げカンパンマンとなった。 敵は本当にG-96を占領したのだろうか…。しかし、敵軍は確かにこの長い塹壕内にいる。サフィアは確信できた。
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G-90 サフィアはここまでやって来た。ここで塹壕内での戦いが繰り広げられている。 敵はショートナイトやオクトスパイダー。ビームソードを使うものばかりだ。所々変身したカンパンマンがザバイバルナイフでSPE隊員や中立軍兵士を刺している。味方は非常に混乱している。 「焦るな!ショートナイトは顔めがけて撃て!」サフィアは部下に命じ、自分は左腕に気を集中する「…サイキ」 左腕に装着されたトライブレスは少し変形してサイキブレスへと変わった。 サフィアは考える。SKファイヤーは…ダメだ、二酸化炭素が増えて俺たちがやられる。SKサンダー…命中率が低い。SKフリーズ…範囲が狭い。SKビーム…くそ、強すぎて塹壕が崩れちまう。 どうやら技はどれも塹壕には適さないようだ。その時、ずっと前に聞いたあの声が聞こえた。 「ク…サフィア。どうやら苦しんでるな。大丈夫。もう少し戦いを長引かせりゃいいんだ。…いいか、集中しろ。時はすでに止まった」 これは…エーレの声…。 もう一度、時が止まったまま声が聞こえる。 「サフィア、君に力を与えよう。ブレスレッドに宿っている最後の力を目覚めさせるよ。この力は波神の力…音波の力だ。…脳裏によぎったその言葉を声に出してごらん」 この声は…アラン。 サフィアは彼らの声を信じて左腕のブレスレッドに気を集中させた。 「みんな、後ろへ…我がサイキブレスに宿る五神の中の波神よ。われに力を!
――――SKウェイヴ!」 サフィアは左腕を前に突き出した。すると風のうねりのような‘ぼや’が前に突き進んだ。このぼやに当たったドロイドやカンパンマンは不意に倒れ、動かなくなった。 ぼやは特殊な波動である。この波動は内側のみを破壊する。つまり、ドロイド内部の機器や人間の細胞を破壊する。しかも人や物を通り抜けるので障害物の向こうにも攻撃できるのだ。強力な反面疲労がたまりやすくなる。 サフィアはSKウェイヴを出し終わると片膝を地面についた。 「俺はいいから戦闘を続けろ!」心配そうに見つめる隊員や兵士に向かって彼は怒鳴った。そして「…心配してくれてありがとな」と付け加えた。 彼らは隊長の命令に応じ、すぐさまライフルを構えて散らばった。
それから数分後、司令部。 「司令官!弾薬が尽きました!」 SPE中兵の男が息を切らして司令部に入ってきた。 「何ですって!」 ソフィヤが驚愕する。 「…しょうがない。塹壕内にドロイドをおびき寄せ、入った瞬間に叩きのめすよう命じろ。…最後の手段だ」 オッドルは握りこぶしを震わせて言った。 「司令官!通信です!」 SPE中兵が去り、入れ替わったように乗り込んだ受話器のコードを伸ばしているオーマン軍の通信兵が言った。 「なんだ、こんなクソ忙しいときに」 マスト司令官はいらだっている。 「緊急地球防衛隊防衛長とか言う人からです」 通信兵の一言で名刀ハリケーンを膝において頭を抱えているソフィヤはガバッと顔を上げた。 「エーレ防衛長!?」 マストはコードを伸ばした受話器を耳に当てた。 「こちらオーマン中立軍司令官マスト……な、何ですって?ありがとうございます!……いえ、助かります……では……健闘致します」 マストは受話器を通信兵に渡した。 「なんでしたか?」 司令官の一人が言った。 「防衛長はSPLのスターランス連隊と地球防衛軍の連合軍が援軍としてやってくるらしい」 マストは答えた。とても嬉しそうでもない顔…最低でも彼はソフィヤよりは嬉しくはないようだ。 「マスト司令官、この戦い、もしかしたら勝てるかもしれませんよ」 マストの顔を見てソフィヤが言った。 「そんなに強いのか?第一宇宙に人がいるかも実感が湧かない」 彼はそう言った。と、今度はドロイドが司令部の扉を開いた。ショートナイトだ。 「皆さん、下がって!」 ソフィヤが叫んだ。そして、膝に置いていた二刀を手にとり、同じく二刀流のドロイドと剣を交える。 しばらく続いた死闘のあと、ソフィヤは一歩後退し、父から受け継いだ技『イアイギリ』を決めた。目にも止まらぬスピードでドロイドに突っ込み、瞬時に二つの刀で敵を斬りつける。数秒後、ショートナイトに切れ目が入り、四等分になる。 「…そのうちドロイドの援軍が来るでしょう。ここを脱出して私達も戦いましょう」 ソフィヤは息を荒げる事もなく平然と言った。そこにいる司令官達もうなずき、司令部を後にした。
アトガキ ども、城ヶ崎です! 結構遅れてしまいましたね。スイマセン。 それでも、結構いい作品になったんではないでしょうか? では、次回はこの戦いの結末とソフィヤとラスト・サムライの勝負!見所です。
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