32話 海底要塞エレン
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その時、ロビーが、いや、鳥人王国全土が揺れた。大きい揺れだ。 しかし、鳥人王国は浮島だ。なのに地震のような揺れがおきたのだ。 舞っていた2人が壇上で倒れ、パーティーは一転して大パニックに陥った。 「み、皆さん、落ち着いて!オチツイテェェ!」 一番落ち着いていないメッゾ・ミーティアルがマイクごしに叫ぶが、火に油を注ぐように、パニックが大きくなった。 みんなは出口に殺到する中、エーレ一人は壇上に向かった。 「サヒア…これは今アンタの父から貰った手紙だ」 エーレは薄汚れている手紙を差し出す。 「オレの…父さん?」 サフィアは手紙を受け取り、すぐさまそれを広げる。 “前略 我が息子よ、もしかしたらお前は私の顔を知らないのかもしれない。しかし、私はお前のことをよく覚えている。 さて、さっき大きな揺れがあっただろ。急がなくてはならん。王国のバランスが崩れておるのだ。9月29日にコクガン島が破壊された。王国3つの小浮島…トライは王国をバランスよく水平に保つ働きがある。話せば長くなるが、一つでもなくなれば王国全土はそのうち落下するだろう。おそらくタイムリミットは2月10日日没であろう。 それを食い止めるには新しい浮島を設置するしかない。今のところ浮島として使えるのは一つだけ。アクアンフォース中部の『オーシャン』海底深くに眠っている要塞エレン、ただそれだけだ。 中心塔の地下にある水晶のようなものを一カケラ持ってエレンの底に設置しなさい。そうすれば自然とコクガン島があった場所に移動する。 わかったな?我が息子よ。健闘を祈るぞ。 草々” その手紙は急いでいたようで、ひどく雑な字で書かれている。しかし、普通の字ならばとてもきれいそうな筆跡だ。 「鳥人王国が…滅びる?」 「そこはオレでもわからねえ。でもな、アンタの父親は嘘つかねえさ」 エーレはゴーグルを少し直した。 「海底にあるなんて……どうとりに行けばいいんだ?」 「私!私が空気の精霊と契約してみる。契約すれば私たちは海底でも宇宙でも呼吸ができるわ」 ドレス姿のソフィヤが真剣に話す。 「ク……一人より二人。いいじゃねえか」 エーレがコーヒーをすする。 「エーレさん――」 「ク……サヒア。もうオレとアンタは同等の関係だ。敬語は好きじゃない。オレのことはエーレと呼んでいいぞ」 エーレが訂正した。 「あ、はい…いや、うん。エーレ、俺たちは海底に行くとみんなに伝えておいてくれ。俺たちはすぐ行く」 サフィアとソフィヤが壇上から降りようとしたとき、エーレが止める。 「アンタたち、ちょいまちな。その服で行くのか?ク…せっかくの衣装が台無しだぜ」 サフィアとソフィヤは顔を赤くしながら下を見るのだった。
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アクアンフォース オーシャン 光が届かず周囲は何も見えない、真っ暗な深海。長い間、水圧と極寒で人を寄せ付けなかった秘境。 そう思うだろう。 しかし、今は点々と下へと続くライトの道…人類はカイトと言う水中で生活できる人ができてから母なる海をも支配したのだ。普通の人間も酸素ボンベをつけ、水圧と寒さを無効化する塗り薬を塗れば解決する。 ただ、海は広くまだ未開の地も多い。アクアンフォース東部の中心であるオーシャンでも点々と続く光の道が2、3本あるだけで他に光はない。それでも海の底には集落…ポリスが10、20ヶ所ある。アクアン・フォースはメディタ・レイニアンとスエズ・クナル、そしてクレタ以外は原始社会と言っても過言ではないだろう。 「こんな所に要塞なんてあるのか?」 サフィアがそう口をあけた。声は泡となって光りながら上っていったが、ソフィヤの精霊の力で言葉は通じる。 「こんな所…だからよ。こんな所に何があってもおかしくないわよ」 ソフィヤは泡ぶくと共に話す。 確かにそうだな…とサフィアは思いながら2人は海の底を目指していく。 そのうち頼りの光の道も途切れてしまった。 「ここら辺からはあの輝く水晶と精霊と通じる私の直感を頼りにするしかないわね。手を握ってないとはぐれちゃうわよ」 ソフィヤの、海の中でもやわらかくてあたたかい手がサフィアの腕に触れた。 「任務とプライベートをごっちゃにするなよ…。あくまで俺は王国を救うために握ってるんだからな」 「そ、そのくらい知ってるわよ…」 それでも、サフィアはソフィヤの手を優しく握った。 その時、前方に二つの丸い点が光ったかと思うと物凄い衝撃が2人を襲った。まるでダンプに撥ねられたようだ。二人とも、腹からまともに喰らい、口から血を吐き、あばら骨が何本も折れ、心臓は一瞬にして停止した。 そのまま、2人はゆっくりと闇に吸い込まれていった。まるで、プランクトンの死骸が作り出したマリンスノーのように…。
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サフィアはソフィヤの隣にいた。まだ眠っている。そして、サフィアはゆっくりと辺りを見渡す。壁の天井も床も全てベージュ色の箱の中に2人は入っている。 俺たちは死んだのか…サフィアは直感でそう感じた。 と、目の前に男が立っているいる事に今、初めて気がついた。 「あなたは誰ですか?」 「私はダニエル。この地球を救ったものだよ。いわば救世主と言われた男だ」 ダニエルは白い布をまとい、全身はボケていた。残像を思わせる姿だが、声ははっきりとしている。 「ダニエル…あ、あなたは161年前、サイコ・バリア・シールドを創ってU-Puの猛威からここを救ったダニエル・ダラガン博士ですね!」 サフィアは少し大きな声で言った。寝ているソフィヤは少しも動じずに寝息を立てている。 「いかにも。…そうか、あれからもう161年も経ったのか。それでもあの大戦の記憶を覚えている人はいるのだな。不幸中の幸い…と言うべきか」 「不幸?一体何が不幸なんですか?もしや…鳥人王国が!?」 サフィアの心臓がバクバク言う。 「フゥ…そのことはわからない。私の言う不幸。それは、最後の大戦が始まると言う事だ。第六次世界大戦が始まる。視点によっては最も残酷な大戦となる」 「大戦…世界大戦…」 サフィアは言葉を繰り返した。 「選ばれし者よ。お主がやらなければならないことは司令塔を破壊すること、そして、それはお主サフィア、ロッジャー・メイト、シャスナ・フィリー、ネオン・キーガス、ス・ナイハン、ステアリン・グリセリル、そして鳥神ソフィヤ・ブルースカイ。7人の救世主は一つの集団とならなければならない。神…生き残った神はその集団を終幕の騎士団『ラスト・ナイツ』と名付けた。そして、お主が騎士団の長、騎士長なのだ」 「ラスト・ナイツ…。騎士長…」 しばらく時が過ぎた。 ダニエルはふと遠くを見つめて呟いた。 「どうやら目覚める時が来たようだ。ゆっくり目を開けよ。そして、それは同時に試練の幕開けとなる。…願っているぞ」 ダニエルが歪み、そして消えていく。それと同時にあたりは真っ暗になった。 そして、選ばれし者は目を開ける…。
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「サフィア!サフィ…よかった!気がついたのね!」 うっすらとサフィアの視界にソフィヤの顔が映る。 ソフィヤの目は至って普通だが、ここは海底。泣いてることはソフィヤにしかわからない。 「私達、海底の人たちに助けられたのよ!内臓破裂、心臓麻痺、全身複雑骨折…こんなの地上の人たちには一瞬で治せないのに…」 と、ソフィヤの横からうっすら青い顔の老人が出てきた。 「おれが見つけなかたら、そして、おれの魔力、弱かたらアンタら、死んでたよ」 老人はカタコトな言葉で話す。 遠い昔、人類は魔法を使える領域にまで達した。しかし、第五次世界大戦が終結したと同時に幻想(魔法)社会は消えた。その生き残りなのか、そのあとに具わったものなのか…。どっちにしろ、原始社会と言ったことは撤回すべきだろう。 「申し遅れた。おれホフ=フォット・アクアマリン。このアンゼンベルポリスの長老」 ホフ=フォットはすらりと礼をする。 「俺はサフィア。騎士だ」 「騎士?サフィアって騎士なの?」 ソフィヤが尋ねた。 サフィアは、この際を借りて夢の中…夢かはわからないが、そのことを全て話した。 「なるほどね…じゃあ私も救世主だったんだ」 「そうなるな」 サフィアはふと任務を思い出した。 「長老さん、ここら辺にエレンって言う要塞ありますか?」 「エレン…エルヌのことだな。いかんいかん。あそこ、魔物いる。魔物、全て破壊する。このポリス、何度も壊された。破壊止めようと1年に一度、2月7日に生け贄やる。今夜も一人、このポリスからやる。ヤン・ユリアーナだ」 「魔物…?そんなものがこの世にあるのか」 サフィアは魔物と言う言葉知っているが、その姿形は全く想像できなかった。 「ねえ、2月7日って…」 2月7日と言うと、王国崩壊まであと3日と言うわけだ。サフィアはガバリと起き上がった。あばら骨が少し痛かったが、割と大丈夫だ。 「長老さん!今すぐにエレンがあるところへ行かせて下さい」 「なぜだ?生け贄になるのか。そうか。しかし、生け贄は12歳以下の女と決まっている。無理だ」 長老はゆっくりと首を振った。 「なら…俺たちがその魔物を倒します!」 おれ…たち?じゃあ私も入るのね…ソフィヤは心の中で呟いた。 「いいか、魔物、巨大。どんなビルよりでかい。一発の波水泡、ポリスめちゃめちゃ。アンタらの重症もたぶんそれ。倒せっこない」 「それでも…俺たちには人類の存亡がかかってるんだ。エレンがないと…」 サフィアの拳が震えた。 「…わかた。ただし、生け贄はやる。そして、アンタらが死んでもおれら知らん。魔物倒したらエレンやる。報告はするな。時間の無駄。これでどうだ」 長老はゆっくりと言った。 サフィアとソフィヤは、満面の笑みをして喜びを分かち合った。
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どうやら2人は長老の魔法によって闇の中でも見通しがきくようにしてくれたらしい。心優しい長老だ。 そして、サフィアとソフィヤの隣にいるいかにも憂鬱そうな人は道案内のヤン・ユリアーナ。生け贄となる人だ、むりもない。 「アタシ、どうなるのかなー」 ヤンが呟く。 「……」 2人は黙ったままヤンを見つめる。 「あ、2人さん、そろそろ着きますから。構えるのです」 ヤンが2人に言った。無理矢理明るく振舞っている感じである。 サフィアがトライブレスとフェニックソードを、ソフィヤはハリケーンを構えるのとほぼ同時に遠くから地響きのような音が鳴り響いてきた。 「来た。魔物、ディープシー・ドラゴン」 そして、魔物の張本人、ディープシー・ドラゴンが姿を現した。 「デ…デカイ」 サフィアが思わず呟くほどディープシー・ドラゴンの大きさは計り知れないものだ。強引にはかるとすると、サフィアが数千人…鳥人王国中心塔と同じくらいの大きさ…。計測不可能である。 サフィアはサイキと唱えトライブレスからサイキブレスへと形を変える。しかし、何を使えばいいのか…いや、SKは何も使えないことがわかった。 ファイヤーはその名の通り火なので海中では使えない。フリーズも海では冷気を出せず、近辺が凍るだけだ。サンダー、水は電気をよく通すのでとりあえず命中率100%だ。しかし、味方にも命中し、全滅する可能性もある。ビームは水に弱い。実証済みだ。ウェイヴは射程距離が短いのでドラゴンの攻撃をまともに喰らってしまう。そして、フェニックソードも短すぎる。フーリは除外。バリスは移動が非常に困難になる。 ドラゴンは口を開いた。波水泡だ。水の波動が目に見える。3人はなんとか直撃はまぬがれたが、波が通り過ぎる時にできる渦で20mほど流された。 まさかここまで海中での戦いが不可能だなんて、ちっぽけな存在だと実感したサフィアは絶望した。 「サフィア、私は戦える。疲れちゃうけど」 ソフィヤは優しく目を閉じ、両手を広げて呪文を唱える。 「雷の精霊よ、空間の精霊よ、この災いの竜を封じ、鎮めよ…。マジウェアー!」 ソフィヤが唱え終わると、ドラゴンの真下に魔法陣が現れ、それの円周から垂直にバリアが伸ばされる。ドラゴンは透明な缶詰の中に閉じ込められている感じだ。そしてその中で電気が、まるで生き物のようにドラゴンを攻撃する。ドラゴンは雄叫びを上げ、倒れた。海底の泥が舞い上がる。ヤンとサフィアはそれをじっと見つめている。 「魔物は…死んだのか?」 ヤンがきく。 「わからない」 そう言ってソフィヤはヤンの方向を向いたが、そこにはヤンではなく、ディープシー・ドラゴンの顔があった。ドラゴンの口から腕がはみ出している。そして、歯の隙間から紫の液体が海水と混ざっていく。 「ヤン!」 サフィアが叫び、とっさにドラゴンの側までよりフェニックソードで魔物の目を乱れ突きした。目からはおびただしい量の血が火山噴火のように吹き出ているが、ドラゴンは動じない。 「サフィア、ちょっとやめて」 ソフィヤは優しく言った。サフィアはキッとソフィヤを睨んだが、ソフィヤの目には何かの策を見つけたようだ。サフィアは言われたとおり剣を目から抜いた。 「…ソフィヤ。私はソフィヤ。あなたは誰?」 ソフィヤが呟く。 しばらくの沈黙のあと、どこからか音に似た声が聞こえてきた。 <ワタシ…タイグンカンセントウセイブツヘイキ。DSD> そう、ソフィヤはこの化け物にテレパシーを送ったのだ。 しかし、対軍艦戦闘生物兵器…一体どう言う事なのか。 <イタイ…イタイ…タマシイガイタイ…。ズットズットイタイ…。イタミ…キエタイ…。タマシイ…キエタイ…。コノモノニ チカラヲアタエ キエタイ> ドラゴンは紫の液体とともにヤンを口から吐き出した。 <ソノチカラデ ワタシヲケシテクレ。タノムゾユリアーナ。スイジンノSKスプラッシュ> ドラゴンはゆっくりと目をつむった。まるで、人が死を覚悟したときのようにゆっくりとまぶたが下ろされた。 「ディープシー・ドラゴン……」 ヤンは両手を交差し、両中指と人差し指を前に突き出して呪文を唱え始める。 「……SKスプラッシュ!」 ヤンの両中指と人差し指から強烈な水の波動が真っ直ぐ突き進み、ドラゴンに直撃した。 ドラゴンはその水圧で、溶けるように消えた。 「…アタシ、すごい」 ヤンは、両手を凝視しながら呟いた。 「…ヤン、世界の運命は君を必要としているようだ。長老に言ってくれ。もし大戦が起こったら、アクアン・フォースは俺たち鳥人王国と一緒に戦ってほしいとな。君たちカイトの魔法と、君のSKスプラッシュがあればDDDを倒せるぞ」 サフィアがそう言っても、ヤンは首を傾げる。 「う〜ん、まあ言とく。意味わからんが」 「サフィア!変な建物がある!」 ソフィヤが遠くで叫んでいる。 ソフィヤの指が差しているところに、うっすらと建物の窓のようなものが見える。5階建てウェディングケーキのようだ。 「あれ、エレヌ。アンタらの求めてるやつ。アタシら、それ関係ない。アンタら、関係ある」 ヤンがソフィヤ向かって叫ぶ。 そして、サフィアにはこう言う。 「災いを招くドラゴンが残したもの。災いとして使用するか、安心のため使用するか、アタシが決める。アタシ、安心の為にやる。もう悲しみ増やさない。さふぃあ、アンタも頑張れ。アタシもがんばる。じゃ」 ヤンはすらりと例をすると、スルスルッと泳いでいった。さすがカイト、動きが速い 「…あいつは凄い事をやりそうだ」 サフィアが独り言を言っていると、ソフィヤが叫んでいることに気がついた。 「ねえ〜、なんとか水晶設置できたよ〜!」 水晶を設置するために泥を掻き分けたのだろう。ソフィヤは泥んこになっていた。 サフィアはクスッと笑うと同時に要塞は動き出した。要塞に被っていた泥が埃のように舞い落ちる。 「あとは…要塞の浮力と強度を祈るだけだ」 サフィアは要塞の方に近づき、ソフィヤに言った。 「中に入っても平気かな?」 ソフィヤが尋ねる。 「…大丈夫だと思うよ。…疲れたし、ここで休むとするか」 2人は要塞の壊れた窓から1階に入った。 「広いね」 「1階の面積なら鳥人王国中心塔より広いかも」 がらんどうの部屋。不思議なくらい静まり返っている。 「なんか眠くなってきちゃった」 「そうだな…ずっと緊張しっぱなしだったし」 そうサフィアが言っている時にはもうソフィヤは心地よい夢の中だった。 「やれやれ…」 サフィアは自分の上着をソフィヤにかけると自分もゆっくりと眠りに落ちていった。
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2月10日朝 鳥人王国全土に避難勧告が下され、国民はゾロゾロと地上へと飛び立ち始め、今ではSPEと数百名のみが王国で2人の帰りを待っていた。 鳥人王国は地震の間隔が狭まり、一番最近に起こった地震が一番強烈で、最高震度6強並だ。 サフィアの父の予想では鳥人王国はあと10時間で崩壊する。 「サフィアはん…」 ネオンがソワソワと地上を見下ろす。 また王国を揺れた。弱いが、残ったものたちの恐怖を煽らせるには十分な強さだ。 その時、援護部隊司令官ブロンデル・ブローライナーの声がトランシーバー内に響いた。 「浮遊物体発見。東南東、下35度、距離数千km」 ネオンは双眼鏡を覗いた。 薄汚れた深緑と茶色のウェディングケーキのような物体がこちらに迫ってくる。 「ク…どうやら崩壊はまのがれたようだな」 マグカップに入ったブラックコーヒーを波立たせているエーレがネオンのそばまで来て言った。 「エレン…昔は海に浮かぶ海上要塞だった様だ。それが撃沈されて海底の遺跡となり、そしてこれからは天空の要塞として生きていくんだろうな」 エーレはニヤリと笑う。特に意味はない。 ネオンは海草の張り付いた天空要塞と、少しずつ昇っていく太陽を見つめた。
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その数時間後、エレン内部で寝ていた2人は目を覚まし、鳥人王国がまだあることを確認した。 「良かった、まだ崩壊してないぞ」 サフィアは胸を撫で下ろした。 「そうね。でも、ラスト・ナイツにロッジャー達が入るとすると、SPEの穴を埋めないといけない事は考えた方がいいかもね」 確かにそうだとサフィアは思った。サフィアはSPE隊長。他の5人は皆高い階級だ。 「…大丈夫さ。俺たちが騎士団に入団してもSPEだし、何より指揮の能力が高い人はたくさんいる。もう穴は埋められるよ」 ソフィヤはそれを聞くと少しだけ微笑んだ。 その時、エレン内部が微かに揺れた。 「お、エレンの進行方向が変わった。そろそろエベレストランドの軌道に乗るのかな?」 サフィアは窓から外を見る。鳥人王国中心塔がくっきりと見える。 その数分後、島から歓声を挙げながら手を振っているみんなが見えた。 2人も窓から精一杯手を振る。 かくして、サフィアとソフィヤは鳥人王国の崩壊を食い止めたのである。
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2人がエベレストランドの地表に立つと、みんなが一斉に群がった。その中にははしゃいで2人の肩を叩く人や、嬉し涙で声も出ない人もいた。 数分後、少し興奮が冷めると、サフィアはSPEを並べ、みんなに話し始めた。 「みんな、よく俺たちが帰ってくるまでこの王国を守ってくれた。本当にありがとう。それで…この機会に言うが…。俺はSPE隊長の座を降りる。ソフィヤも司令官を辞める」 興奮の歓声は一瞬にして疑問のざわめきに変わった。あまりに急なことなので理解に苦しむ人もいる。 「みんな、勘違いしないでほしい。俺は隊長から降りるが、SPEは辞めない。俺は特別護衛団『ラスト・ナイツ』をSPEに創る。SPLで言うスターランス連隊のように、特殊な部隊だ」 更にざわめきが起こる。 「主な任務は、これから起こる世界大戦を想定し、敵軍の司令塔を撃破すること、そして、味方の重要人物の護衛だ。そして、この騎士団に入団する人は決まっている。俺と、ソフィヤと…」 「異議ありや!サフィア!」 ここで異議の鬼、ネオンがサフィアの話を制す。 そんなもの、ワイは反対やで…そう反論するであろう。みんなが思っていた…が。 「その中に、ワイもいるやろ?」 「え?」 サフィアが思わず声を漏らす。 「ワイに、ロッジャー、シャスナはん、スーにリンはん。7人の救世主…せやろ?」 ネオンが…知っている!? 「リンはんが言ってたんや。夢なんか見たことないのに、あの時は見た。それも現実のようなものを。ってな。最初はワイも信じへんかったけど、あんたの言葉聞いて確信したんや。ラスト・ナイツ。ええやないか」 辺りは不安そうなざわめきで包まれる。 「ちょっと…そうするとあなたたちが抜けた穴はどうするんですか?」 ニシャーンが聞いた。 「ちゃんと考えてある。総合部隊司令官はコーフ・ヴェノア。守護部隊司令官はルンダ・マモタ。先頭部隊司令官はブラコン・グランチェスタ。そして俺に代わって隊長はニシャーン・ブドー」 「わわ、我ですか?一体どのような理由で」 「それは簡単な事だ。SPEはDDD軍の攻撃を防げる、防御を持たなければならない。だから護衛部隊軍士長…軍士長だった君が隊長として最もふさわしいと思ったんだ。それに武術もあるし」 サフィアは一瞬イザナギのシルエットが脳裏に浮かんだ。 「…実のところ我は隊長の座を狙っとりました。今となってはいい思い出ですけど…。ええ、もちろん引き受けますとも!そして、世界を守りますとも!」 ニシャーンは前に出て、みんなの方を向いた。そして、敬礼をすると隊員も一斉に敬礼する。もちろん騎士団もだ。 ここに、SPE3代目隊長、ニシャーン・ブドー率いるSPEと、ラスト・ナイツが誕生した。 「それと…あともう一つ大戦の為にやらないといけないことがあるな」 騎士長が新隊長に言う。 「もう一つ…とは?」 「君の言ったことだよ。地球の全ての国々と同盟を組むんだ。平和共同連合…DDDと戦う連合軍を作るための準備をな」 「それを忘れていた…。ブローライナー司令官、早急に各国と連絡をするんだ。各国と早急に…だ」 ブローライナーはコクリとうなずき部下に指示を送っている。
数時間後、鳥人王国の警報が解除され、早くも復旧活動が始められている。サフィア達は鳥人王国中心塔内の評議会で打ち合わせをしている。 「…満場一致。エレン4階、5階は発見者のSPEに渡す」 マピオン議長がクールに木槌を叩いた。 これと同時に、評議会の扉が開かれた。そこからSPE隊員が入ってくる。 「皆さん、各国との連絡がつきました!アクアンフォースを除く全ての国が会談を望んでおります。しかも、地底連邦は自国を会議の場として使用しても良いと言う事です」 「ありがとう。で、アクアンフォースはなぜ?」 「わかりません。ただ、全てを拒否してます。」 「代わりは探したか?」 「そう言うと思い、総力を挙げてアクアンフォース中に連絡を取ってみたところ、アンゼンベルポリスと言う小さな集落が応じてくれました」 隊員は、資料を見ながら言った。 「ヤン…長老…ありがとう」 サフィアは心の中で呟いた。 「会議が三月一日です。議事と議長は我々鳥人王国がやって下さいと言っていました。では、失礼しました」 隊員が礼をして、評議会から出て行く。
第五次世界大戦から161年経った。世界は、今、大きな分岐点に到着した。
あとがき ども、城ヶ崎です。 ごめんなさい、本日はゴチャゴチャになりました。 次回はもっといい感じになるよう努力します。ええ。 次回『平和共同連合会議』です。動きがないことが予想されます。
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