31話 バーダー・ダンスパーティー
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アラビアン戦争から早3ヶ月。9月いっぱいまでサフィアは会見や取材で忙しかったが、今は12月30日。年を越すのを待つだけになっている。鳥人王国は和やかなムードに包まれているわけだ。 「あ〜…来年も今みたいにゆっくりと過ぎていけばいいんだけどなぁ…」 SPE隊長の間からトワイライトの空をボーっと見ながらサフィアは呟いた。 外は雲ひとつないオレンジの空。冬にありがちな天気である。外は肌寒いが逆にそれが心地良い。 と、隊長の間の扉からノックの音が聞こえた。 「ソフィヤでーす」 「おお、ソフィヤか」 と、サフィアは間の扉を開く。 目の前にはニコニコ顔のソフィヤの姿。鳥神の衣装を着ている。 サフィアはソフィヤを中に入れると扉を閉め、カーペットに座った。ソフィヤはふかふかのベッドに座った。 「ここの部屋、懐かしいな」 「ああ、前はここに俺とソフィヤとロッジャーがいたんだからな…」 ホウオウが暗殺される前、この部屋はソフィヤの部屋で、ほんの数日だけサフィアとロッジャーもこの部屋で生活していたのだ。 「ねえ、2日後に何があると思う?」 「え…3461年になる日…じゃないの?」 「えへ、やっぱりサフィアは知らないんだね。確かに2日後はニューイヤーなんだけど、来年は8年に一度のバーダー・ダンスパーティーの年なんだよ!」 そして、ソフィヤはニコッと笑う。 なぜかわからないがサフィアも笑った。しかし、バーダー・ダンスパーティーとはなんだろうか。サフィアはソフィヤに聞いてみる。 「バーダー・ダンスパーティーって言うのはね、鳥人王国を挙げての大イベントなの。その日は男女のペアになって鳥人王国中心塔の1階でダンスをするの。8年に一回だからみんな楽しみにしてるんだよ」 …と、ソフィヤは前回のパーティーの事…ソフィヤが8歳の頃のパーティーをまるで今あったように語りだした。 ソフィヤのお父さんはとても美しい舞をしたこと、鳥神と鳥神のペアになる人はダンスの大トリを任させる事、その時ダンスをつくるのは男で女はそれに身を任せると言う事。 ちなみに、なぜ8年周期なのかと言うと、まずソフィヤのお父さん…ホウオウが8歳で第一号のバーダーになったこと、その8年後に鳥人王国が建国されたこと、その更に8年後にSPEが創立されたわけで、縁起がいい周期としてそれから8年後に第一回目のバーダー・ダンスパーティーが始まったのだ。次回のパーティーで4回目になる。 「…俺はバーダーじゃないけどできたりするのか?」 「もちろん!鳥人王国は平等と自由の国。このパーティーの為に外国からやってくる人もいるわ」 どうやら、このパーティーは物凄い人気らしい。きっと、それほど楽しいのだろう。 「で、でさ、サフィア……あの、ダンスする相手とか決まってる?」 ソフィヤの顔が赤くなる。やはり、すぐに顔に出る。 「いや、だって今さっき知ったんだよ。決まってるわけないじゃないか」 ソフィヤはキッパリ言った。やはり、鈍感だ。 「じゃあさ…まあ無理かも知れないけどっ、私とダンスしてくれたり……」 「やだね」 サフィアが短く言った。 「だってさ、お前とやるんなら俺がダンス考えるんだろ?ムリムリ、俺にそんなセンスないし、第一俺は元からダンスやる気なんてないから」 …………。 「……バカ」 「え?」 「サフィアのバカバカバカ!鈍感!もうサフィアなんて、サフィアなんて大ッ嫌い!」 ソフィヤは部屋を飛び出して駆けていってしまった。 「俺…なんかいけないこと言ったかな?」 サフィアが呆然と立ち尽くしたまま、ソフィヤが乱暴に開けたドアを見つめた。 そして、サフィアは自然と部屋を出てロッジャーのいる部屋に向かうのであった。
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「サフィア…い、言いまくりじゃんよ!お姉様の心をズタズタにしたじゃんよ。それほどひどいなんて思わなかったじゃん!」 事情を知ったロッジャーがサフィアに説教をしている。お姉様とはソフィヤのことで、ロッジャーはサフィアだけの会話のみ密かに使っている。 ロッジャーの部屋は隊長の間のすぐ隣にありサフィアは困った事があると気軽にこの部屋へ言って相談をしているのだ。 「お、俺、どこら辺がダメだったんだ?」 サフィアがロッジャーに訊いた。 「まあ広く見れば全部ダメじゃんけど、狭く見れば…お姉様の期待を裏切った所じゃんね。お姉様はアンタとダンスがしたかったじゃんよ…。まあ、ようはサフィアのバカチンじゃん」 「う…タヌキ、今日は反論ができない…。歳は俺の方が上だけどこう言うことはお前の方が詳しいからな」 ロッジャーは嫌味な笑みを浮かべる。 「シャスナちゃんと踊るんだ〜。おいらとても嬉しいじゃんよ!」 更に嫌味を付け加える。しかし、その言葉の真の意味にはサフィアにやる気を起こすためだ。 「…ありがとうな、ロッジャー。じゃあ俺行ってくるよ」 サフィアは手をふりロッジャーの部屋から出て行った。 「……応援してるじゃんよ」 ロッジャーはボソッと呟き、マンガを読み始めるのだった。
ロッジャーの部屋からサフィアがでてくると階段の方からネオンが走ってくる。 「やあネオン。なんかあったの?」 「なんかあったの?って訊きたいのはワイの方や!どないしたん?ソフィヤはん泣きながら鳥神の間に入ったで」 ネオンはサフィアの肩を掴んでガクガク揺さぶりながら叫ぶ。 サフィアはネオンを落ち着かせてから、ソフィヤとのことの一部始終を話した。 「な、なんやってぇ!そりゃあんたアホやで!泣くきまっとるやろ!鈍感すぎるで、ホンマ」 ネオンはまたサフィアの肩を掴みガクガク揺さぶる。ツッコミも強い。 「あう、あう…ちょっいた!舌噛んだ。…実はさっきロッジャーからも同じようなこと言われたんです。俺、今こそ鈍感を直さないといけない。そして、ソフィヤに謝る」 ネオンは揺さぶりを段々弱くする。最後にはサフィアの肩をポンポンと叩きながら、 「そか。ソフィヤはんは鳥神の間におると思う。きっと泣いてるやろ。ま、がんばりや。わいはそれしか言えへん。頑張り」 と言い、サフィアの背中をぽんと押した。 「ありがとう、ネオン。自信が沸いてきたよ」 サフィアは礼をすると階段を駆け出した。 「……ふう、サフィアはんにダンスのパートナー誰や?なんて聞かれたらどないしようかと思ったわぁ…。ま、今のサフィアはんならそんなこと聞かんやろな」 サフィアの背を見つめながらネオンは呟き、彼は自分の部屋のドアを開けるのだった。
SPE最上階へつながる階段は、学校にある階段のように折り曲がっている。そこの半分行ったところにスーがフラフラ歩いている。 「スー、どうしたんだ?」 サフィアが恐る恐る聞く。 「どうした…と言えばさっきソフィヤァが顔崩れんほど泣いてたんが、どしたんだべか?」 「まあ色々あってね」サフィアは自然に流した「そういえばスー、ダンス相手決まったか?」 サフィアは冗談交じりに言ってみる。 「それがまだ決まってねえんだ」 「まあそうだろうな」 「さっきな、リンさとこ行って誘ったんだ」 「え?」 スーの何気ない一言でサフィアは目を丸くする。 リンは今、SPEの牢獄――牢獄と言ってもホテルの一室のようなもの――でDDDのことをSPEに話している。もちろんリンの使え魔であるブラットもいる。 しかし、サフィアが驚いたのはリンの事ではない。スーがダンスを誘ったことに驚いているのだ。 サフィアの中でスーのイメージは、いつもオドオドしてて勇気が無くて何か言うとすぐしらけるパッとしない人だと思っていた。 「でもな、フラれたんだぁ。『私は死神。そんなことは許されません』ってなあ」 それでもスーはへらへらと笑っている。 しかし、サフィアは笑えなかった。ダンスを誘うなんてサフィアにはできない。それ所か、誘われても断ってしまった。実の所、理由はただ恥ずかしかったから。 スーを見下していた自分が嫌と言うほどバカらしくなってきた。 「…そうか。残念だったな。でも次はいいことあるさ……じゃあ俺は急いでるから」 「おう、じゃあなぁ!」 スーが手をブンブン振ってサフィアを見送っている。
サフィアがもう半分の階段をあがると鳥神の間への扉があった。 深呼吸して扉を開けようとしたその時―― 「こんにちは、サフィアさん」 サフィアはその女性の声に思わず扉を離してしまった。 「ア、アナさん、こんにちは」 サフィアの後ろにはアナがいる。どうやらさっき挨拶をしたのはアナなのだろう。 「ソフィヤさん…どうなされたのですか?せっかくのお顔があんなに…」 サフィアはスーには教えなかったが、アナには今まで起こったことの一部始終を聞かせた。ロッジャーとの相談、ネオンとの会話なども踏まえて。 「そうなんですか…。サフィアさんってダンス苦手そうですものね。あ、お気を悪くしないで下さい。…ダンスと言うものはですね、あなたの思っているように考えてやるものではないのですよ。特に大トリをやる鳥神のダンスはごく自然に、体が勝手に動くようなそんなダンスなのです。鳳凰様が言っておりました。センスは存在しないのですよ。……サフィアさんはソフィヤさんのことを大切に思っていらっしゃるんでしょ?」 アナの声はゆっくり、ほんわかとあたたかだった。しかも、嘘は言えないオーラが漂っている。 「まあ…守ってはやりたい」 サフィアはうつむきながら言った。 アナはニコッと笑って囁く。 「サフィアさんは少し前のサフィアさんと変わりましたね。……ソフィヤさんを喜ばせて下さいね」 「は、はい!」 サフィアはこれ以上無いほどの自信を持つことができた。 ロッジャー、ネオン、スー、アナ、そして自分…。 アナが階段を降りることを確認すると、もう一度深呼吸して鳥神の間の大きな扉を開いた。 扉からはトワイライトの光が差してきた。
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ソフィヤは鳥神の間の大きなベッドでうつ伏せに寝ていた。 その時、扉が開いた。 ソフィヤは気配で入ってきた人物がサフィアだと言う事がわかった。 ふと顔を上げたくなってきた。しかし、頭で思っても身体が許さなかった。 「ソフィヤ…」 サフィアがゆっくりと呟いた。 「もう何も言わないで!」 …そんなことソフィヤは思っていない。しかし、性格上と言うか、なんと言うか、思わず口が出てしまったのだ。 しかし、サフィアはこの叫びに動じない。 「俺は言わなきゃいけない」 ソフィヤはドキッとした。サフィアの声がたくましく聞こえたのだ。 「もし聞く耳を持たないのなら、聞かなくてもいい。でも、俺は言わなきゃならない。二日後のバーダー・ダンスパーティー、お前は誰も誘わないでくれ。俺はダンスを真剣に、必死になって考える。だから…きれいなドレス、着てこいよ。じゃあ、俺は部屋に戻るから」 サフィアは一度ソフィヤのポニーテールを見て、そして部屋を出た。 扉が閉まった音のあと、この部屋は無音同然の空間に包まれている。 ソフィヤはこの無音の中、うつ伏せのまま呟いた。いや、もしかしたら頭の中で思っただけかもしれない。
――ありがとう…。
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それからサフィアは部屋にこもりがちになっている。 今日は12月31日。つまり、日本で言う大晦日だ。 ソフィヤたちは最後の今年最後の夕食を味わいながら食べている。 「全く、サフィアったらどこにいるんだろう。今年最後のご飯なのに…冷めちゃうよ」 ソフィヤが巨大な飲食の間をキョロキョロ見渡しながら言った。 「じゃあソフィヤ探してくれば〜。どうせ隊長の間に居るじゃんよ」 ロッジャーがミートパイを食べながら言った。 「あ、私は…」 ソフィヤはあの日からサフィアと会っていない。食事の時間の時もサフィアの姿を見たことがなかった。なんと言うか、サフィアからソフィヤを避けているようだ。 きっと…明日には風のようにスラッと来ることだろう。そうソフィヤは信じている。いや、確信している。 「そうだ、シャスナちゃん、サフィアの部屋まで行ってきてよ」 「え、私?いいでしゅけど…」 「え、じゃあオイラもいく〜」 シャスナがうなずくとロッジャーも割り込んできた。口の中はミートパイとチェリーパイのコラボレーションだ。 「ダメ、ロッジャーはゆっくり食べてなさい。これは鳥神直々のご命令よ」 「ちぇ、女王様ぶって…」 ロッジャーはしかめっ面をしていたがシャスナはそのまま立ち上がって飲食の間を出る。 廊下は暗かった。シャスナはゆっくりと廊下を進む。隊長の間は飲食の間の向かい側の右へ2つ行った部屋にある。 シャスナはその部屋のドアをゆっくりと開けた。すると、サフィアが一人で踊っているではないか! 「さ、サフィア…しゃん?」 シャスナの声が上ずる。 サフィアはシャスナに気がつくとダンスをやめ、シャスナの方へ向かった。 「あ、もう夕食の時間だね」 「そ、そうでしゅ…」 「ありがとうね。…あ、今はバーダー・ダンスパーティーの秘密練習なんだ。みんなには内緒だよ。…夕食はみんなが食べ終わったあたりで食べるよ」 「そうなんだ!じゃあまたね。良いお年を!」 シャスナは感心しているようだ。 「良いお年を、シャスナ」 シャスナは飲食の間に戻るとソフィヤに伝えた。 「サフィアは明日の準備で忙しいんだって。それでね、とても嬉しそうだったよ!」
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3461年1月1日 地上から見れば遙か上空にある鳥人王国。王国の遙か高くに聳え立つ鳥人王国中心塔。その遙か彼方にある宇宙。その全てが今日と言う日を祝福しているようだ。 鳥人王国中心塔の1階全面積を使うロビーは今、ダンスを踊るために来たダンサーやそれを観にきた観客で埋め尽くされている。 「これから、第四回鳥人王国バーダー・ダンスパーティーを開催します」 司会担当のメッゾ・ミーティアルが開会の言葉を終えると鳥人王国中心塔ロビーいっぱいのダンサーや観客から拍手が喝采した。 「それでは皆さん踊りましょう!最初の曲はジャパニーズ・ジョーで『リス・フィーナ』です。開始は5分後なので、観客の皆様は端にそれて下さい」 大勢の人々が2つに分かれはじめた。中央にはダンサーが、外側には観客と見物するダンサーが集まっていく。 「あ、ネオン!ここにいたじゃんね!」 鳥人王国中心塔の壁沿いでバシッとスーツで決めているロッジャーがネオンの元にやって来た。ロッジャーの隣には、シャスナがフェリスターのドレスなのか、半透明のドレスを着ている。まるでウェディングドレスのようだ。 「お、おうロッジャー…どしたんや?」 袴姿…侍スタイルのネオンが珍しく動揺している。 「…ネオンさん、どうしたんですか?そんなに私とダンスするのが嫌なんですか?」 ネオンの後ろから振袖を着ている和風スタイルのアナが出てきた。 「ア、アナ!…え?」ロッジャーが2人を交互に見渡す「あの…2人は何か…?」 どうもロッジャーは2人が合致しないらしい。 「どないでもええやろ。あ、ほら、始まるで!」 リス・フィーナのメロディが流れ始める。中央にいる何組ものカップルが思い思いにダンスを始めた。 ピアノの美しい、それでいて物悲しい、安らげる曲だ。バーダー・ダンスパーティーはダンスだけでなく、音楽でも楽しめるのだ。 「あ…」シャスナが思わず呟いた。 目の前にスーとリィナのカップルが踊っているのだ。 スーは19歳。今年の3月で二十歳だ。リィナは9歳。今年の4月で10歳だ。歳の差は10歳なのに恐ろしいほどベストマッチした背たけである。 スーはチラッとこっちを見ると、 流れに任せたらリィナと組むことになったんだよぉ…。 と言いたげな顔をしながら向こうへ流されていく。 スーが見えなくなると次の曲『アジア・ドリーム・ソング』が流れ始めた。 こちらもピアノソロでリス・フィーナ同様緩やかなテンポだ。この曲は一度聞いたら頭に残る…ロッジャーはそんな感じがした。 「よっしゃ、踊ろか。ロッジャーはんらも踊らへんか?」 侍のようなネオンが優しくアナの手を取るとロッジャーに言った。ロッジャーはうなずいてシャスナの手を握ると、ネオンとアナと一緒にダンスの渦に溶けていった。 そのすぐ側のテーブルで4人…正確に言えば2人と2匹がダンスを見物している。 「エーレさんは…踊らないんですか?」 リンがコーヒーの入ったマグカップ(きっとエーレのおごり)を手にしながらゴーグル男に訊いた。 「ク……オレの恋人はコーヒーさ。彼女を踊らせてブラックの渦を楽しむ…。それがオレのダンス…悪くねえな」 エーレは恋人のエーレブレンド42.195号をすすった。湯気と一緒に鼻に入り込む香りがたまらない。 「ねえリン、やっぱりこのおじさんおかしいよ。何言ってるのか分からないよ。ずっと前に言ったけどリンたちが地球にいて僕は宇宙にいたとき、おじさんそんなこと‘毎分’言ってたよ。例えば…」 ブラットのマシンガントークが炸裂している。 「それはそうですが、あっしの視点から見るとエーレさん、物凄いオーラを放っていることがわかるッス」 マスーDrの考察だ。 「確かにオーラを放ってるね。すっごいオーラが」 ブラットがひにくる。 「こら、ブラット」 リンが軽く叱った。 「死神ちゃんよぉ…アンタは踊らねえのか?」 「私は…死神。踊ってはいけないの」 リンが冷たく言った。 「ク……このパーティーはどんな奴でも、例えば恐竜やロボットでも静かにしてれば踊っていいんだぜ?それより…サヒア、どこにいるんだ?」 エーレがコーヒーを口にしながら呟いた。
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ここは、鳥人王国中心塔の地下。ここの存在は中心塔の住民でも知っている人は少ない。ここが開くことはこのダンスパーティーの時と非常時のみだ。 ダンスパーティーの大トリ、鳥神とそのパートナーはこの部屋で待つことになっている。 しかし、今は鳥神ソフィヤしかいない。パートナーはまだ来ない。 「誰も来ない……」 この部屋にはパーティーのラスト2時間前までにくればいいのだが、ソフィヤは待ちきれずに始まってすぐに来てしまったのだ。 部屋にはダンスパーティーの中継や食事もついているが、一度入ったら上には本番まで行くことができない。たった一人この部屋にいるのは退屈である。 ――バーダー・ダンスパーティー、お前は誰も誘わないでくれ―― ソフィヤの頭の中でこの言葉がぐるぐると回る。 「サフィア…」 ポソリと呟く。 ――きれいなドレス、着てこいよ―― ソフィヤは今日、新品のスカイブルー色のドレスを着てきた。自分自身の中では一番似合うと思っている。自分で我紋の刺繍を入れてきたのだ。そしてもちろん、いつも通り髪の毛は後ろでポニーテールにし、帽子型のゴムひもで止める。宝物をそこにしまって…。 その時、ソフィヤの視界が真っ暗になった。 ソフィヤは小さな悲鳴をあげて翼をばたつかせるとまた元通り視界が明るくなる。ソフィヤが後ろを向くとそこには―― 「サ、サフィア!」 ソフィヤの顔がほころぶ。 「おお、凄く似合ってるね。クライマックスにはちょうどいいよ」 サフィアはニコッと笑った。お世辞ではなく、心からの言葉だ。 「ありがとう…サフィア」 ソフィヤも満面の笑みで返す。 サフィアはネクタイがとても似合うスーツを着ている。左胸にはサフィアの我紋、象形の剣のマークが施されている。 「サフィアもすっごくカッコいい!」 ソフィヤは顔を赤らめながら言った。 「ありがと」 サフィアがそう言うとしばらく沈黙が続く。気まずいような、恥ずかしいような。 ダンスの中継からはヘイ・フォウの『スカイスター』の16ビート的なリズムが流れてくる。ココ=アルとメディアのペアとニシャーンとキャディーマのペアが仲良く踊っている所が映っている。 「そういえば…ここは何があるんだい?」 サフィアがソフィヤに訊いた。 「ここは…お父さんが言ってたっけ?この浮島を浮かべるための力が存在してるって。それで、新しい島を浮かべるときにここの力を分けろ…って言ってた」 ソフィヤは昔のことを振り返って言った。 「……へえ。もしかして、このドアの向こうにあるのかな?」 そう言いながらサフィアはドアを開ける。 そこには光り輝く水晶のような物が所狭しに敷き詰められている。 「凄い……」 サフィアが思わず呟いた。 「サフィア……眩しい…」 ソフィヤの声がか弱くなっていた。 「あ…ごめん」 とサフィアはドアを閉め、ソフィヤの隣に座る。 「…なんか眠くなってきちゃった……」 ウトウトとソフィヤが呟く。そして、ぱたりとサフィアの肩を枕にして眠ってしまった。 「しょうがない奴だな…」 静かにサフィアが呟く。しかし、心臓のどきどきはどうしても止まらなかった。 サフィアは、時間が止まればいいのに…と心底思った。そして、さすがに時間は止まらなかったが2人は長い時間そのままの体勢だった。
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太陽はちょうど遠くにあるヒマラヤ山脈に沈みかかっている。空は青から赤へ、スカイブルーからトワイライトへと変わっている。 すでにダンスは一時停止し、みんな最後の2人のダンスを待ち望んでいる。 「さあて、楽しいパーティーもそろそろラスト、クライマックス!最後の最後、締めをやってくれるのは、毎回恒例の鳥神とそのパートナーのオリジナルダンス!しかし、今回は一味違うラストになりそうだ!鳥神はかのホウオウ様からソフィヤ姫…陛下とチェンジ!と言う事は、今回は鳥神の考えたダンスではなく、そのパートナー…サフィア閣下のつくったダンスと言う事になるのです!陛下は閣下に従って舞う…クゥー!」 司会担当のメッゾ・ミーティアルはテンションが上がりまくっている。 司会がこうなっているからか、全体のテンションも上がっていて、まるでライブのようだ。歓声と拍手が自然に沸き起こる。 「ク……サヒア、成長したな」 サヒア…サフィアを見つけたエーレはコーヒーをすすった。 「それではやっていただきましょう!スズキ=アンド・タナカで『FALLIN LOVE AND』!」 FALLIN LOVE AND…遙か昔のRPGでながされたが、ゲームでないような大曲で、心の奥で何かが燃える感じがする。サフィアはこの曲を聴いて瞬時にダンスが浮かんだらしい。 サフィアの誘導でソフィヤのドレスのスカートがはためく。まるで髪の毛が風でなびくかのようにステップを踏む。ソフィヤはただそれについていくだけだが、それでも輝いて見える。翼から出る羽根が雪のようだ。 「お姉…ソフィヤ…きれいじゃん」 ロッジャーが見とれている。ロッジャーは誰にでも見とれそうだが、シャスナやアナ、それにリン…いや、ここにいるほぼ全ての人が2人のダンスに見とれているだろう。 サフィアはソフィヤの右手を上にあげて、くるくるとまわす。羽根のように軽やかだ。 「サフィア…あの時はごめんね」 ソフィヤがサフィアについて行きながら囁く。 「あの時…ああ、2日前か。謝るのは俺のほうだよ。あんなバカで、鈍感だった俺は…」 そこまで言うとソフィヤは小さく微笑む。 FALLIN LOVE ANDの心温まるメロディーがロビー中に響く。 「あたたかい…」 そして、顔を赤らめてうつむく。 「あのね、サフィア…。私、サフィアの事がね…す」 「ちょっと待った。床を見るんなら俺を見ろ」 サフィアがソフィヤを制する。 「え…」 ダンスはそのまま続く。 「その言葉はな、次回のバーダー・ダンスパーティーまで…な。思いが変わらなかったら俺が言うよ」 FALLIN LOVE ANDのヴァイオリン演奏とオルガンのハーモニー。 「ずるい…私が言おうとしたことを盗んで、そこまでとっておくなんて」 ソフィヤは頬をプクッとさせる。 「でも……待ってるからね」 ソフィヤはサフィアの目を見て優しく微笑む。 サフィアも微笑む。ソフィヤの笑顔がすてきだから。
アトガキ ども、城ヶ崎です。 いやっはぁ!なんか恋愛ですね。まあ戦いの合間の安らぎを僕は求めていましたからね(笑 というわけで次回は海底要塞エレン。クライマックス迫ります!
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