青 → 黄 → 赤。 信号の指示でブレーキを踏みつけた。 この交差点の赤は長い。 サイドブレーキを上げて鼻先で横切る車と歩行者を、ワイパーの向こうに眺める。 カラフルなカサ模様。 窓を伝う雨雫を目で追っていると、助手席から声をかけられた。
「ウソゲームしようよ」 「はい?」
快活に笑う彼女に眉をひそめた。
「ここの信号、青になるまで長いでしょ?」 こいつとは、付き合い始めて今日でちょうど5カ月。 「それまでの暇つぶし」 「どんなゲーム?」 沈黙が続くよりはマシ。俺は承諾した。 「思ってることの逆を言うの」
うれしそうに簡単な説明。 どういう発想力を持っているのか、時々彼女の頭の中を覗きたくなる。 「じゃ、スタート!」
何を言おうか考える間もなく、彼女の先制。 「私、雨が大好きなの。水たまりに飛び込みたくなる」 雨は嫌い。水たまりも嫌い。 「俺は晴れてる方が好きだな」 俺は雨が好き。 「そうなの? 知らなかった〜」 それを彼女は知っている。 「言ってないからね」 前に話したから。 「じめっとした空気の方がいいよ」 「からっと晴れた日の方が気持ちよくない?」
ウソの反論に彼女はご満悦。 何が楽しいのか、俺にはわからないけど。 「えへ〜」 うれしそうに笑う彼女は楽しそう。
「あとね、あとね」 きょろきょろと頭を揺らした彼女が、後部シートに上半身を伸ばした。 何事かと思えば。 「これ」 その手に取ったのは1枚のCDケース。 メガネが3つ、公園のベンチに並んだジャケットで俺が好きなCD。 目の前に出されたそれに相槌を打つと、
「これ、大っ嫌い」
たとえウソゲームと言っても、笑顔での否定ってのはつらいものだと実感した。 「センスないもんなー」 言っていて苦笑にしかならない。 「あ」 小さい口を彼女が開いた。 歩行者用の信号が点滅している。
「じゃーねー」 まだ続けるつもりらしい。 サイドブレーキを下げつつ、俺は青信号を心から待ち望んだ。
自慢の笑顔で彼女は言う。
「あなたが一番好き」
彼女に横目で俺は笑う。
「この世で一番愛してる」
信号が青に変わった。
♪END♪
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