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Two DOGs and The DOG 作者:ナコソ

第6回   サヤちゃんと先代オーナー

「まさかビルが、聖フィルデナント教会にいるなんて思わなかったよ」
「立ったまんまってのも疲れるだろ? 座れよ。イスはたくさんある」
 促されたけど、俺は肩をすくめて断った。横目でサヤちゃんの様子を窺うと――
 パチッ。
 爪を切っていた。
「……サヤちゃん?」
 たまらず声をかけた。
「はい?」
 隅っこに身を寄せ、うずくまって、左手の爪を切るサヤちゃん。
「何してんの?」
「爪切りですけど?」
 うん、それは一目瞭然だ。
「どうして、今なの?」
「ちょっと気になったもんで。爪の長さは均等じゃないと気になるんです」
 そう言うと、再び爪切りに専念する。右手で構えた爪切りと、左手を睨み付ける双眸。
 パチッ。
 慎重に爪切りをしてるサヤちゃんは、いいや、放っとこう。
「ひゃははは! そいつ、おもしろいだろ? 先代のオーナーがよく使っていた女なんだ。仕事は早いし確実。現に、今こうしてお前を連れてきたしな」
 その間に、4時間弱の鬼ごっこがあったとは、ビルも思ってないだろけど。
 左手を眺め首を傾げるサヤちゃんからビルへと視線を戻すと、彼はその痩躯で立ち上がっていた。
「そう言えば」
 俺の中で、1つの仮定が組み上がった。
「聖フィルデナント教会のオーナーが死んだって聞いたよ。体をバラバラに刻まれて、木に磔にされてたって」
 ビルは笑っていた。目を細め、唇を歪めて。
「まるで、オヤジと同じ殺され方だね」
 俺は無表情にビルを見つめる。
「聖フィルデナントのオーナーなんだって? 先代が死んでくれたおかげで、ビルは成り上がれたわけだ?」
「そのおかげで、今や多忙だけどなぁ。俺がオーナーだってのがそんなに気にくわねぇのか、いつ寝首をかかれるかわかったもんじゃない。不眠症になりそうだ――ひゃはっ!」
「そんなに大きくはないマフィアとは言え、それでも大将になったんだ。ビルも偉くなったもんだよ」
「フィルデナントの規模は、これから大きくしていくさ」
 イスに置いていたらしい、ビルはそれを手にすると一息で鞘から抜いた。
「その前に、どうしても片しときたい仕事があるのさ」
 一振りの刀が空を薙ぐ。小気味良い音。
「――ひとつだけ、聞いてもいーいかい?」
 俺は人差し指を立て、ビルに示した。
「どうして先代オーナーを、オヤジと同じように殺した?」
 オヤジ――といっても、父親と言うわけじゃなくて、育ててくれたって点ではそうなのだけど、いわば師匠だった。俺とビルを育て、生きる術を教えてくれた人物。地下塔において、心を許す事のできた数少ない人。聖フィルデナント教会先代オーナーと同様に、体を刻まれ殺された男。
「どうして、だって? ひゃあっは!」
 刀と鞘を持ったまま両手を広げる。さも当然とビルは言ってのけた。
「俺からキアへのメッセージさ。お前がどんな仕事しているかってのは知ってたんだがよぉ、こっちから接触しにくかったからなぁ。オーナーの死にっぷりを見りゃわかるだろって思ったんだが」
 ちっ――ビルの舌打ちは、妙に湿っているのだった。
「気付かなかったみたいだな、キア」
「ビルと聖フィルデナント教会と、俺の中ではつながってなかったんだ。そんな符合(メッセージ)なんて気付かないよ。世の中、似たような事するヤツもいるもんだ、って思ったくらい」
「ひゃはははは! おまえらしいなあ! オヤジの死ってのは、所詮その程度だったって事か!」
 ビルの哄笑は、懐かしさも覚えないくらいに耳障りだった。
 俺はコートを脱ぎ捨て――背中に背負っていたそいつを握り――ゆっくりと引き上げた。金属同士が擦れる音に鼓膜が震える。
「――いつ見ても、そいつは綺麗だな」
「俺も、そう思う」
 俺が抜いたそいつは、刀と呼ぶにはシンプルすぎる代物。握り部分から刀身まで、すべて金属でできた刀。部署の名称など意味を持たない、一枚鉄の剣。しっかりと握られるように指の形にくぼんだ握りから、わずかに反ってスゥッと伸びる刀身は片刃。地価塔でのみ造られる金属なのだと、オヤジは言っていた。錆知らずの折れ知らず――まるで不屈の信念を具現したような刀だと。
「さて――」
 重心を沈め、ビルが構える。
「――殺し合おうか」
 真上に放られた鞘を一瞥し――俺も構えた。
「めんどくさ〜」
 ビルの唇が、ニタァと左右に伸びた。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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