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Two DOGs and The DOG 作者:ナコソ

第10回   殺し屋と友人

「――――あっけないもんだなぁ」
 仰向けで倒れたビルの声は、弱々しく震えていた。
 刀を弾かれる事なんて、容易に予想し得た。しかしながら、そこに生じるであろう一瞬の隙を狙ったのは、俺にとっては賭けだったわけだ。もしもビルが、渾身の一撃(仮に一刀両断と名付けるとして)の他にも必殺かつ自信ある一撃を持っていたのならば、結果はまた違ったと思う。こうして立っているのがビルで、倒れているのが俺という図になってたろうね。
 けれど、剣を交えてみたところでは、他の一撃があるとは考えられなかった。何より、接近して斬り合ってる中で一刀両断(仮)を放ったくらいだし、あんな、使い方間違えれば無防備極まる危なっかしい一撃、動体視力と反射神経と己が剣の腕に絶大な自信を持ってなきゃ、普通は使わんし。
 結果、ビルは絶大な自信を持っていた。
 そいでもって、それはまったくもって考慮内だった。
 だからこそ、俺はわざと刀を弾かせた。
「死んでく感じって、こんななんだな。初めてだ」
「そりゃそーでしょ。不死身じゃないんだし」
「ひゃははっ、ちげーねー」
 吐血するビルを見下ろすのは、たとえ嫌いなヤツとはいえ、いい気分じゃない。
「おまえの」
 ビルの目は、天井を見上げたまま動かない。唇から頬へ、唾液交じりの血を伝わせながら、それでも唇は動く。
「おまえの、最後の一太刀……ありゃ、何だ?」
「ああ、居合い抜き?」
「何だそりゃ?」
「何、と聞かれると困るんだけど――速いんだ、一撃が」
 我ながらわかりにくい説明だって思う。ビルは苦笑した。
「わかりにくいな」
「同感」
「そいつを撃つために、わざと弾かせたってか」
 ありゃ、バレてる。
「体勢崩したと思ったのによ」
 脇に抱えるように刀を構え、鞘から引き抜くように切る――居合い抜き。刀を弾かせたのは、一刀両断(仮)を誘うためと、自然に居合い抜きの構えにシフトするため、2つの意味があった。居合い抜きであればビルの刀よりも早く切れると、受け止めた時に感じたのだよ。
「――じゃ、ビル。俺、そろそろ帰るわ」
 仰臥するビルに背を向ける。足元に転がっているビルの刀を一瞥。
「冷てぇヤツだな。今際の際まではいてくれねーのか」
「その必要がないから」
 脱ぎ捨てたコートを拾い上げ、袖を通す。
「だって、ビル。致命傷じゃないから」
「……………………」
「……………………」
「……………………は?」
 案の定、ビルは目を見開いて俺を見た。
「血ィ吐いてんのにか?」
「さすがに、そのままい続ければ死ぬよ。部下を呼んで、手当てすれば命は助かる」
「血ィ吐いてんのにか?」
 しつこいヤツだ。めんどくさいと感じながらも、歩を進めながら律儀に答えてやる。
「血ィ吐いたって、それでも生きてる人はごまんといるよ」
 ギッ――ドアを開いた。外から冷風と雪が吹き込んで、あまりの寒さに身震いする。
「友人のよしみだ、命だけは勘弁してやろうって事」
「ひゃはっ」
 ビルは吹き出した。
「いらねー事しやがる」
「手当てしないでそのまま寝てたら、ほんとに死ぬからね」
「どうしてだ」
 勇を鼓して外に出ようとした時に、ビルの責め口調。嘆息しながら振り返る俺。
「単なる殺し屋じゃないんだよ、俺は」
「何だよ、そりゃ」
「さあね。けど、そーゆ事。せいぜい生き永らえなさーい」
 今度こそ、雪の舞う白銀の世界へ飛び出した。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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