列車は駅を離れました。お店の人がわざわざ見送りに来てくれて、ちょっとびっくりしましたけどね。
小さな街の駅前通りを通り過ぎていった人たち。たまたま通りがかっただけの人。そういった人のことが好きになって、ひとつずつ本棚が増えていったのが、「ここです」書店。 「ここ」にしかない、でも、本当は、どこにでもある筈のお店。同じように、こじんまりとした商店街や、陽射しのきれいな広場のかたすみを、どこにでもいる素敵な人たちが通り抜けてゆく時にどこにでも見つけられる本屋さん。その中で、「ここ」にあるお店。 そういったわけで、本棚が五つになったとき、「ここです」書店という名前になったのだそうです。
「またいつかね」 そういって、ぼくは、自分の街に帰ります。 そうですね。今夜、駅を降りたなら、もうちょっとだけ注意して街角みを眺めてみることにしましょう。 ひょっとしたら、ぼくのすむ街にだって、ひっそりと「ここです」書店が、お店を開いていたりするかも知れませんから。
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