翌日の夜遅く、「ここです」書店に女の人がかけこんできました。
「すみません、『星の国の花束』ってありませんか?」 「申し訳ありません、ちょっとわかりかねるのですが……」 「これです、ここに載っている……」 女の人は、新聞の切り抜きを出すと、「今週の本」だとか、そんな記事を指さしているようでした。
「探してみないとあるかどうかは……」 「いい加減なお店ね」 「申し訳ありません」
それでもしかたなく女の人は、フロアをまわって探し始めたようです。「なんで、子供の本がこんなにあっちこっちにあるのよ」とか、ぶつぶつ言いながら。
ところが、しばらくすると、女の人は本棚の前で立ち止まってしまったのです。やっと見つかったのかな――そんな風に思ったのですが、ちょっと違うようです。 女の人は、1冊の本を手に取ると、なんだかじっと表紙を見ていました。そしてゆっくりと本を開くと、少し読んで。 結局、女の人は、三度繰り返して、三冊の本をレジまでもってきました。
「お願いします」 「ありがとうございます」 「あの、別々に包んでいただけますか?」 「贈り物ですか?」 「ええ。1冊は娘に。1冊はあの人に。そして、1冊は私に」
女の人は、入ってきたときとはうって変わってゆっくりと出てゆきました。
「ここはね、よそのお店とはちょっと違うの」 ぼくが不思議そうな顔をしていると、お店の人が声をかけてくれました。 「違うって?」 「ここはね、自分が本当に読みたい本を教えてくれるところなの。あ、ちょっと違うか。本当に読みたい本を思い出させてくれるところよ。そう、決して誰かが決めてくれた『今週の本』なんかを抱えて、本を探しに来るところじゃないわ」
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