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「ここです」という名前の本屋さん 作者:麻野なぎ

第1回   いらっしゃいませ
夕暮れ頃に、ぼくは初めての駅に降りました。
こじんまりとした駅前商店街を歩いて、なんだか「通り過ぎてしまった」ような気がしました。ふりかえると、そこには「ここです」という名前の本屋さんがあったのです。

「いらっしゃいませ」
お店の人が、声をかけてくれます。商店街に埋もれてしまいそうな小さなお店で、入夕暮れ頃に、ぼくは初めての駅に降りました。
こじんまりとした駅前商店街を歩いて、なんだか「通り過ぎてしまった」ような気がしました。ふりかえると、そこには「ここです」という名前の本屋さんがあったのです。

「いらっしゃいませ」
お店の人が、声をかけてくれます。商店街に埋もれてしまいそうな小さなお店で、入ってみると、本棚が七つばかり置いてあるだけです。

「随分と変わったお店ですね」
「そうですか?」
ぼくは、思わず言ってしまいました。だって、どう考えても本棚のならべ方が変なのです。壁に沿ってきれいに並んでいるわけではありません。こちらを向いていたり、あちらを向いていたり、はすかいに置いてある本棚だってあるのです。
それに、良く見ると本のならべかただって変です。『おいしいケーキの作り方』のとなりに『全天星図』が置いてあるのは、何かの間違いじゃないかという気になりますし、『世界怪盗大百科辞典』が入り口の本棚にあるのに、『読者への挑戦《超難問推理事件集》』が、一番奥の本棚にあるのも、どう考えても変です。
ぼくは、本のことに詳しいというわけでもないのですが、きっと、普通の本屋さんの本の並べかたはこうじゃないと思います。

「それに、本の並べ方が、ちょっと変わってるんじゃないかなと思って」
「そうですね。普通に並べている訳じゃありませんから」
「普通に並べているわけじゃないって?」
「なんとなく、いちばんしっくりとくるところに、本を置いたの。他の誰かが決めた並べかたじゃなくてね、私が、ここにあると良いなと思ったところに並べたのよ」
「それを全部覚えているんですか?」
「それは無理だわ。どこにどんな本を置いたかなんて、全部は覚えてないわ」
「本屋さんがわからないんじゃ、どうしようもないよ」

とにかく、おかしな本屋さんなのです。
でも、なんだか、とてもおもしろそうな本屋さんだなって思ったものですから、ぼくは、この街で過ごす間、毎日よってみようかなってふと思ったのでした。
ってみると、本棚が七つばかり置いてあるだけです。

「随分と変わったお店ですね」
「そうですか?」
ぼくは、思わず言ってしまいました。だって、どう考えても本棚のならべ方が変なのです。壁に沿ってきれいに並んでいるわけではありません。こちらを向いていたり、あちらを向いていたり、はすかいに置いてある本棚だってあるのです。
それに、良く見ると本のならべかただって変です。『おいしいケーキの作り方』のとなりに『全天星図』が置いてあるのは、何かの間違いじゃないかという気になりますし、『世界怪盗大百科辞典』が入り口の本棚にあるのに、『読者への挑戦《超難問推理事件集》』が、一番奥の本棚にあるのも、どう考えても変です。
ぼくは、本のことに詳しいというわけでもないのですが、きっと、普通の本屋さんの本の並べかたはこうじゃないと思います。

「それに、本の並べ方が、ちょっと変わってるんじゃないかなと思って」
「そうですね。普通に並べている訳じゃありませんから」
「普通に並べているわけじゃないって?」
「なんとなく、いちばんしっくりとくるところに、本を置いたの。他の誰かが決めた並べかたじゃなくてね、私が、ここにあると良いなと思ったところに並べたのよ」
「それを全部覚えているんですか?」
「それは無理だわ。どこにどんな本を置いたかなんて、全部は覚えてないわ」
「本屋さんがわからないんじゃ、どうしようもないよ」

とにかく、おかしな本屋さんなのです。
でも、なんだか、とてもおもしろそうな本屋さんだなって思ったものですから、ぼくは、この街で過ごす間、毎日よってみようかなってふと思ったのでした。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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