―鳥の鳴き声が聞こえた。
「…ん?」
なぜか軋みをあげている、全身の筋肉と骨。
それを耐えて、痛む上半身を無理やり起こす。
―やはり。
目の前に広がる、野原の風景。
鳥が鳴き、ススキが揺れている。この季節にふさわしい、味のある景色だ。
「・・・・・。」
しばし、その風景を楽しんでいると、寝ぼけていた頭に、ゆっくりと思考が戻ってくる。
―起床した直後特有の、不快な粘膜が口内を覆っており、耐えられない。
口を、ゆすぎたいな。
そう。
―日常的にこなしている行動を思い出し、実行しようと立ち上がった瞬間、オレは覚醒した。
水が染み込むように、欠落していた昨日の記憶が頭に舞い戻ってくる…。
そして、何でこんなにも寝起きが悪いのか、と、自分にウンザリした。
―命に関わる。これではいつか、命に関わる。
…と。今はそんなコトを危惧している場合では無い。
何せ昨夜、冗談では無く、本気で命に関わる出来事に直面したのだから。
―昨夜オレは、鬼を切ったはずだ。
その光景どころか、握り締めた刀の感覚から、嗅いだ血の匂いまで鮮明に覚えている。
そしておそらく…。
―瞬間的に爆発的な運動をした為、気を飛ばしてしまったのだろう。
度々あるのだ、実際。剣士としては恥ずかしさを通り越し、危険な性でさえあるのだが。
―イヤ、もしかしたら鬼を切った、というのは錯覚で、本当は死んでしまったのかも。
「おい!!」
―兎に角、床で布団に包まって寝ていると言うことは、拾った者がいると言うこと。
ソイツに訳を聞くしかあるまい。…ゆえに、オレは大声で誰かを呼んだ。
―失礼だが、拾った者の名が分からぬ以上、仕方あるまい…。
「…おぉ。真。起きたか。」
―何と。
届いた声は、見知った、仲の良い友の声と酷似していた。
―というか…。
「…清明…。」
計らずも、彼女の声が口の端からこぼれる。
―その時オレは、不覚にも、安心を覚えてしまったのだ。
なぜなら、ココに清明がいるというコトは、生きている、というコトでもあり…。
…イヤ、違う。―正直に言おう。
オレは「鬼」に出会って、少し恐怖心が浮かんでいたのだ。
そこに彼女の顔。オレは、こらえようも無いほどに、安心した。―それだけの話。
「…おぅ。」
オレの言葉に、彼女はたった一言答えると、ニッコリと微笑んだ。
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