―後の祭り。
…いや、祭りに行ったコトなんて、数回ぐらいしか無いのだけれど…。 何せオレは、祭り独特のあの活気が苦手なのだ。いつもは気にせず歩ける通りが人で埋まり、 一歩一歩に注意をはらわなければいけなくなる。だいたい露天で売られる菓子の不味いコト。 そのくせ、いつもよりも高い値段をふっかけてくるのだ。あれは公的に認められた詐欺場としか 思えないし、そんな所に好んで出向く人の気が知れない…。
と、そんなコトを考えている暇では無いのだった。
―焦りで無茶苦茶な思考をしていたオレの脳天に、目の前の大男は躊躇いもせずに手にした大刀を振り下ろしてきたのだ。
無駄な思考を振り払い、地面を転がって、その山をも裂かんとするような斬撃をかわす。
オレがかわした刃は、元のオレの立ち位置を大きく抉り取っていた。
―地面をだ。地面をえぐったのだ。
「…やべぇ…。」
久しぶりに、弱音が口をついてでてくる。
―油大路の「鬼」とは、どうやらオレだけでは無かったらしい…。
怖い。怖い、が、今はとりあえず、手の中の剣を握りなおす。
「鬼」相手に通じるかどうかは怪しい。というより、大きさを見ると、通じないと考えるほうが妥当だろう。
―熊相手に、棒切れで戦うようなモノだ。
…が。
―裏稼業とはいえ、一応は剣の道を進んでいるのだ。
一度も切り結ばずに刀を戻すなど、恥と言うもの。
―こんなのを相手にして、「美学」など語るべきではない。と、一般人なら思うだろう。
だが、鬼に語る美学、というのも、中々オツなものだ。と、オレは思うのだ。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・。
―やはり、オレはかなり酔っている…。
「鬼」と対峙した時の「驚愕」が当に冷めていたコトと、あさってなコトを考える脳とで、実感した。
―それとも、まだ「夢だ」という可能性も捨てていないからかもしれない。
兎に角、オレは手の中の刀をもう一度確認した後、怠慢な動きでコチラに向き直った「鬼」目掛け、地面を強く蹴った―。
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