清明の家で借りた提灯を持ち、闇夜を渡る。
―よもや、ここまで遅くなってしまうとは。以後気をつけなければなるまい。
昼間通った道が、時間が変わるだけで、ここまで変貌を遂げるとは…。
帰りがけの清明の誘いを、断るべきでは無かった。と、今更ながら、後悔の念が押し寄せる。
―しかし、いくら仲の良いだけの友達と言えど、清明は女性だ。
朝方まで一つ屋根の下で過ごしたとあっては、さすがに問題であろう。
まぁ、そう考えてしまうのは、自分だけかもしれないが…。
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―語り合った会話の内容を思い出すだけで、帰りの長い道のりも、退屈せずにすむ。
悶々と、下らぬ心配に頭を傾けている間に、オレはいつの間にやら、噂の油大路まで来ていたようだ。
清明が「鬼が出るらしい」と語った、件の路。同時に、オレの「仕事場」でもある。
結局、ここに現れる「鬼」とは、仕事中のオレのコトである。と言う結論に達したので怖くは無い。
―怖くは無い、はずなのだが…。
先ほどから背後に、妙な気配を感じていた。
ヒタ…ヒタと、履物を履いていない、裸足の足音。
―物乞いでは無いはずだ。いくら物乞いでも、このような時間は出歩かぬ。
幾分、足を速めてみる。
―が、足音も速度を上げ、一定の間隔をあけたままだ。
「……。」
―面白い。
オレは、酒の勢いと、鼻の奥に残る血の匂いとが手伝って、腰の刀を抜刀し、振り返った…。
月夜に煌く、銀色の刃。幾人もの血を吸ったのに、刃こぼれ一つ、錆一つ浮かぬ、我が相棒。
「…何者、だっ!?」
―が。
まぁ、なんつーの…?デカイ…?
振り向いたオレの目線の先には、月をも覆い隠すほどの巨体をもった、大男がたちはだかっていた…。
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