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時代錯誤 作者:pu-pa

第4回   第一部 第三話
サラサラの黒髪を背で結い上げ、男物の着物を着こなす清明。

屋内の仕事が多いせいか、雪のような色白の肌。

そして、綺麗に重なっている、二重瞼。

誰かは、彼女の事を、「狐を親に持つ人間らしい。」と、まことしやかに語っている。

世間一般からすれば、それは陰陽師として生きる彼女を、皮肉めいた嘲りで表しているのだ、と考えるだろう。

―しかしオレは、その噂を知ったとき、嘲っているのでは無く、賛美しているように思った。

なぜなら、彼女の美貌は「人」とは思えず、野で気高く生きる「狐」のような、、

そんな「人外」の美しさを思わせる所があったからだ。

「…真、こんな噂を聞いたコトがあるか?」

―そこまで考えていたオレの思考は、突然清明に話しかけられたことによって、一時、中断される。

オレの視線に気づいたのか、焼いた秋刀魚を頬張っていた清明が、酒を飲んでいるオレに問いかけてきたのだ。

―見ると、柱に背をあずけた清明もすでにほろ酔い加減で、わずかに頬を朱に染めている。

こんな時の彼女は、普段あまり喋らない、というより厳密には、喋ってはいけないコトを、口にする事が多い。

―それは、都の裏事情であったり、宮中の色恋沙汰の話であったりするのだが、得てして、非常に面白いのだ。

それから彼女は、オレの注意が向いているのを確認した後、言葉をわずかにひそめ、恐怖を煽るような、ふざけた調子で語り始める。

―今日のお話は、どうやら、「怪談」らしい。

「油大路にな、出る、らしいのだ。」

「何が?」

「…「鬼」だよ。」

何だか、いやな予感がした。

「その鬼とはな、「刃物」を用いて、人を殺めるらしい。」

―予感が、確信に変わる。

「音も立てず、事の瞬間を、だれにも見せぬ。」

―あぁ、やはり。

「…して、昨夜も一人、やられたのだ。首から上を、スッパリと。」

―正確には、「心の臓を、一突きに」だ。

酒を含んだ「語り」は、人を饒舌にする。

―彼女も例に漏れず、宮中では絶対に見せないような笑顔と子供っぽい仕草を交え、一気に「噂」の概要を語った。

「…そっか。」

杯の中に残っていた酒を一気にあおり、吐き出す息と共に、相槌をうつ。

―恐ろしい事では、全く無い。何せ、オレの話なのだから…。

「何だ、怖く無いのか。面白く無いのぅ。」

唇をとがらせ、今一度、柱に背をあずける清明。

―おおかた、オレの帰り道と重なる油大路の話なら怖がるだろう、と思っていたに違いない。

「もしかして、、その「依頼」受けたのか?」

―「鬼」の話なら、それはほぼ完璧に、彼女への「依頼」として舞い込んだ話のはずだ。

「あぁ、受けたとも。都にはびこる鬼風情、敵では無い。」

握りこぶしをつくり、虚空へ突き出す清明。

―今宵は、いつもより、羽目が外れているらしい。

「無理だ。無理だよ清明。」

「ん?」

オレの言葉の真意を測れず、というより聴いていなかったのか、眉間に皺を寄せた顔を、こちらへ向けてきた。

「何でか、知りたいか?」

「うぅ?あ、あぁ。」

「…その鬼とは…。」

「その鬼とは…?」

オレが身をのりだすのにつられ、緊張した面持ちを作り、面を近づけてくる彼女。

―高位の、陰陽師であるがゆえに、その仕草が倍に可愛らしく感じる。

「オレのコトだからだ。」

二人の間に流れる、しばしの沈黙。

―真剣に見つめてくる、清明。そして、見つめ返すオレ。

「「・・・・・・・。」」

―先に崩れたのは、清明だった。

「…ぶっ…。」

夜も更けてきたというのに、都に響き渡る笑い声。

「そうか、おぬしか…。なら無理じゃのぅ。断らねばならぬのぅ…!!」

口をおさえ、尚も止まらずにケタケタと笑い続ける。そこまで可笑しいコトでは無いが。

というより、目の前にいるのは、れっきとした「暗殺者」なのだが。

しかし、そういうコトを、彼女は歯牙にもかけない。―初めて会ったときから、そうだった。

―そして、酒が入ると、どんなコトでも異常に面白く感じてしまうもの。

それからは下らない話に花を咲かせ、二人で無駄に盛り上がってしまった。

結局、オレが帰ったのは、丑三つ時を幾分、過ぎた後だった…。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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