―油小路の闇。
…オレが初めて人を殺めた場所であり、今回の約束の場所である。
「……。」
唐突に、目の前の闇が形を持ち、抜き出てきた。
…全身を黒い装束で包み込んだ男。
一人では、無い。
幾人もの、性別さえわからぬ人間達が、その狭い路地で、オレを囲んでいた。
「……。」
どの目も爛々と輝いており、獲物を狙う獣のようだ。
…実際、そのつもりなのだろう。
オレも、少し、本当にほんの少し前まではこうだった。
「……。」
輪の先頭にいた奴が、刀を振り上げ、切りかかってきた。
…それを避ける。
避けた先に、別の人間が刀を振り下ろす。
…それをも、避ける。
次々に振り下ろされる刃の群れを、オレは避けて避けて、避けまくった。
考えがあったわけでは無い。
…ただただ無心で、避けていた。
「……。」
オレを取り囲む者達の息が、乱れ来た。
オレはそこで、家を出るときに腰に下げていたはずの刀に、手をかけた。
…そしてそれを、抜き払う。
「……!?」
周りの連中が、息を呑むのを感じた。
…淡い月明かり。
その中に姿を現したオレの相棒は、柄から1尺も無い所で、無くなってしまっている。
この路で、幾人もの血を吸い続けたオレの刀は、すでに死んでいたのだ。
…そう、ほんの最近の、羅生門で。
今思えば、それが、その出来事が、巡り巡った形での、オレの死だったのかもしれない。
―しかし。
―しかし、これこそが。
―武器となりえない、この刀こそが、答えだ。―
完
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