「…貴様、何やら思う所があるだろう?」
清明の背中を見送り、自分の部屋を片づけしていた時の事だ。
いつも通りの高慢な態度で、百虎が声をかけてきたのは。
…オレの部屋の出窓に、膝を立てて座っている百虎。
あいかわらずの蒼髪と、大気を収縮させているかのような、威圧感。
…しかし、問いかける内容は、思いのほか、的を射ているものだった。
「…さぁな。オレ自身にも、よくわからん。」
―事実だった。
昼間手紙を受け取った時から、何やら胸の奥に何かが詰まっているのだが。
それが何なのかが、全く検討不明だった。
「なぜ、そう思うのだ?」
「…そうさな。」
オレが問いを重ねると、僅かに眉をよせ、出窓の外眺めだす百虎。
…彼がオレの問いに対してまともに答えようとする姿勢を見せたのは、かなり久方ぶりのことに思える。
「…貴様の目が、いつもより、人間らしくなっているから、か。」
あいかわらず出窓の外を見たまま、こちらを見ずに答えてきた。
…つぶやくようなその口調は、まるで自分に確かめているかのように、聞こえる。
「…何だそれ。」
「まぁ、その汚らしい顔を水面か何かで確かめてみるコトだ。」
―見続けられたら、の話だがな。
最後にそう言い放つと百虎は、出窓から外に飛び降りた。
肩越しに手を挙げ、そのままスタスタと門の方へ歩く。
…どうせ、どこかで遊びまわってくるつもりなのだろう。
何とも暇な奴だ。
…オレは清明に続き、百虎の背中を見送った後、全く進まぬ部屋の片付けに、ため息をついた…。
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