■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

時代錯誤 作者:pu-pa

第3回   第一部 第二話
奴の家をたずねるのだから、土産を、用意しようか。

清明は、親しさ・身分に関係なく、来訪者には、卑しくも、土産を要求するのだ。

―そして、奴は、清明は、要求しておきながら土産物にこだわる。

あまり誉められた事ではないし、さらに身分が高い者からすれば、無礼にもあたるだろう。

―しかし、そこは清明の家であり、清明の敷地。立ち入る者を選別するのも、清明の自由だ。仕方あるまい。

だから、清明の家を訪ねる者は、ほとんど諦めに近い感じで、土産物を用意するしか無いのだ。

―そこで土産物を選ぶヒントとなるのが、清明の身分は高い、というコト。

何せ、帝お抱えの大陰陽師。低いわけが無い。

―そして、身分が高い者は「高貴」で「崇高」である。

さらに、「高貴」で「崇高」な身分の方ほど、「金銭的」な、俗物的な物を喜ぶものだ。

そう、当然正解は、、金や銀、豪華絢爛な高級品。

―などを持って行っては、門前払い。通してくれない。

そうだな。この時期、山々が朱に色づくこの季節ならば…。

―秋刀魚、といった所か。

清明の家へと向かう道の途中で、市に立ち寄り、今朝獲れたばかりの秋刀魚を二尾、買う。

一尾は清明のため、もう一尾は、オレが食う。

―清明は、そういう奴だ。

「献上」される品には目もくれず、「共に楽しむ」物のみを喜ぶ。

その性格は正直に、隅々に現れており、奴のかまえる住居にも見て取れる。

―帝が用意させたそれは、外側は見事な景観だが、、

内側はむしろ、そこら辺の富豪の家の方が上等なぐらいのモノになっているのだ。

そして、そんな清明の家は、都を「風水」とやらに当てはめた場合の、「鬼門」の位置に当たる。

まぁ、これにも色々と理由があるらしいが、面倒くさいのでおいておく。

―簡単に、必要なことだけを言うと、オレの家がある地域の、ま逆となる、というコトで。

オレは都を縦断している内に、秋の柔らかい日差しの中で、汗だくとなっていた…。

右手に秋刀魚を寝かせた籠を持ち、左手で清明の家の門を押し開く。

あいかわらず、少し建付けが悪い。

―噂では、侵入者を察知するために、わざとしている、というコトだが。

果たして侵入者とやらは、堂々と正面切って現れるものなのだろうか…。

―まぁ、清明の矛盾だらけな行動はいつものコト。素朴な疑問は、この際置いておこう。

かすかに軋みながら、木の大扉が開き、清明の家の庭が視界に少しづつ姿を現した。

―造園など全くしない、まさに「野原」というのがお似合いの庭。

そう、気取らず、かっこつけず。―それが、オレはたまらなく好きになっている。

清明に「惚れた」のも、きっかけは「庭」を見た時だったように思えるほどだ。

―回想はさておき、家の敷地には入っているが、ココから先が、もっとも神経を使う。

道無き道を、雑草を踏みしめて、奴の家の「縁側」を目指す、険しい道のり。

―仕事が無い限りは、そこで寝そべっているはず。

オレは、花を踏まぬように注意をはらいながら、一歩を踏み出した。

そこで唐突に、耳に聞きなれた声が届く。

「…ぉ?真じゃ無いか。」

やはり今日も例のごとく、か。

奴は寝そべったまま、片手を軽く上げ、オレに示して見せた。

―全く、女なのだから、もう少し節操をわきまえるべきだと、思うが。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections