奴の家をたずねるのだから、土産を、用意しようか。
清明は、親しさ・身分に関係なく、来訪者には、卑しくも、土産を要求するのだ。
―そして、奴は、清明は、要求しておきながら土産物にこだわる。
あまり誉められた事ではないし、さらに身分が高い者からすれば、無礼にもあたるだろう。
―しかし、そこは清明の家であり、清明の敷地。立ち入る者を選別するのも、清明の自由だ。仕方あるまい。
だから、清明の家を訪ねる者は、ほとんど諦めに近い感じで、土産物を用意するしか無いのだ。
―そこで土産物を選ぶヒントとなるのが、清明の身分は高い、というコト。
何せ、帝お抱えの大陰陽師。低いわけが無い。
―そして、身分が高い者は「高貴」で「崇高」である。
さらに、「高貴」で「崇高」な身分の方ほど、「金銭的」な、俗物的な物を喜ぶものだ。
そう、当然正解は、、金や銀、豪華絢爛な高級品。
―などを持って行っては、門前払い。通してくれない。
そうだな。この時期、山々が朱に色づくこの季節ならば…。
―秋刀魚、といった所か。
清明の家へと向かう道の途中で、市に立ち寄り、今朝獲れたばかりの秋刀魚を二尾、買う。
一尾は清明のため、もう一尾は、オレが食う。
―清明は、そういう奴だ。
「献上」される品には目もくれず、「共に楽しむ」物のみを喜ぶ。
その性格は正直に、隅々に現れており、奴のかまえる住居にも見て取れる。
―帝が用意させたそれは、外側は見事な景観だが、、
内側はむしろ、そこら辺の富豪の家の方が上等なぐらいのモノになっているのだ。
そして、そんな清明の家は、都を「風水」とやらに当てはめた場合の、「鬼門」の位置に当たる。
まぁ、これにも色々と理由があるらしいが、面倒くさいのでおいておく。
―簡単に、必要なことだけを言うと、オレの家がある地域の、ま逆となる、というコトで。
オレは都を縦断している内に、秋の柔らかい日差しの中で、汗だくとなっていた…。
右手に秋刀魚を寝かせた籠を持ち、左手で清明の家の門を押し開く。
あいかわらず、少し建付けが悪い。
―噂では、侵入者を察知するために、わざとしている、というコトだが。
果たして侵入者とやらは、堂々と正面切って現れるものなのだろうか…。
―まぁ、清明の矛盾だらけな行動はいつものコト。素朴な疑問は、この際置いておこう。
かすかに軋みながら、木の大扉が開き、清明の家の庭が視界に少しづつ姿を現した。
―造園など全くしない、まさに「野原」というのがお似合いの庭。
そう、気取らず、かっこつけず。―それが、オレはたまらなく好きになっている。
清明に「惚れた」のも、きっかけは「庭」を見た時だったように思えるほどだ。
―回想はさておき、家の敷地には入っているが、ココから先が、もっとも神経を使う。
道無き道を、雑草を踏みしめて、奴の家の「縁側」を目指す、険しい道のり。
―仕事が無い限りは、そこで寝そべっているはず。
オレは、花を踏まぬように注意をはらいながら、一歩を踏み出した。
そこで唐突に、耳に聞きなれた声が届く。
「…ぉ?真じゃ無いか。」
やはり今日も例のごとく、か。
奴は寝そべったまま、片手を軽く上げ、オレに示して見せた。
―全く、女なのだから、もう少し節操をわきまえるべきだと、思うが。
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