■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

時代錯誤 作者:pu-pa

第25回   第三部 第五話
かろうじて、そこに羅生門という存在の証拠として残ったのは、、

―積み上げられた灰色の石段のみだった。

腕の中に清明を包みこみ、降り注ぐ瓦礫からかばう。

…清明はすでに、痛みによるものか、恐怖がもたらしたのかは不明だが、気を失ってしまっている。

「…っ。」

痛みを耐え、ゆっくりと振り返る。

―奴は瓦礫の頂点で、まるで何も起こらなかったかのように、こちらを見下ろしていた。

…いや、何かが違う。

真紅。

奴の髪は今、先ほどまでの、海のような蒼髪では無くなっていた。

…天を突かんばかりに逆立ち、空の青に反逆するかのような、真紅に変色していたのだ。

「……。」

―唐突に、理解した。

…自分がいかにあがこうと、絶対に立ち入れぬ、絶望的な境界線。

オレの目には、瓦礫の上に立つ「奴」は、この世のどんな者をも超越し、凌駕した、絶対なる、王に映っていた。

…そしてそれは、おそらく、事実だ。

「……。」

奴はゆっくりと瓦礫を降り、オレと清明の所へ歩み寄ってくる。

…最早、抵抗など考えさえもしなかった。

「……。」

目の前に立った奴は、再度、口の端を吊り上げ、ゆっくりと微笑んだ。

そして、ゆっくりと頭を下げ、オレの耳元へ唇を近づけてくる。

…そして。

「…我が名は百虎(ビャッコ)。」

…そして、唐突に名乗った。

名を名乗る。それだけのコト、と思うかもしれない。

しかし、名を名乗る、その行為の意味合い。

「…今宵から、貴様に従おう。覚悟しておけ。」

オレがその言葉の意味を、理解するのには、数刻の時間を要した。

…しかし、意味不明だ。

先ほどまで、オレと清明を、限界までいたぶっていた奴が、何を今更。

第一、奴に得が無い。

「…何を…。」

―この男が、オレの式神に、なるというのか。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections