―己の体だが、己の体ではない。
そう、まるで己の体の中から、己を見る、そんな感覚。
今のオレは、単なる傍観者に過ぎなかった。
「…っがぁあ!!」
「…っ。」
目の前の蒼髪に、思い切り体当たりをかます。
…両腕を交差させて防いだ奴だが、その体はいとも簡単に、反対側の壁まで吹き飛んだ。
「…っがぁぁぁぁ!!」
一気に距離を詰め、折れていたはずの右手で、奴を殴りつける。
完治していたのだ。―はっきりとした理屈はわからないが。
「…っ。」
羅生門の、頑丈な樫の壁が、軋みを上げる。
…続いて、左。右。左。右。交互に繰り出す拳打。
蒼髪の奴の息を吐くような声も、だんだんと荒立てられてきている。
効いている、のか。
―その瞬間、一瞬前までは圧倒的な恐怖でしかなかった奴に、僅かな勝機を見つけた。
しかし。
「……。」
唐突に、交差された腕の影から、奴の口元が見えた。
…微笑んでいた。僅かにだが、口の端を吊り上げて。
「………ぁ」
気づけば、先ほどの位置、清明の隣まで、後退している。
―反対側の壁際にいる奴は、ゆっくりと交差している腕を解いた。
…額から、僅かな血を流す奴。気のせいではなく、微笑んでいた。
「…かわせよ?」
唐突にかけられた、言葉。
―しかしオレは、その端的で意味不明な言葉の中に、しっかりとした意味を見つけていた。
…まるで、昔ながらの親友であるかのように。
「…っ!!」
清明を小脇にかかえ、物見窓から飛び出す。
…次の瞬間。
羅生門は、大地を揺るがすほどの轟音と共に、跡形も無く、消し飛んだ。
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