―オレのささやかな「攻撃」に対し、さらに目をスッと細める、奴。
握った手の中の、最早柄しか残っていない相棒。
―オレは、その両方を見て、絶望した。
奴は、清明の方を向いていた目を、体ごとこちらへ向けてくる。
「・・・・。」
―そして、唐突に、ニッと微笑んだ。
奴の表情の変化、一つ一つに呼吸が止まってしまう自分が、何とも情けなく思う。
「…愚かだな。人間。」
眩いばかりの光を放出していた左手の、すでにその光はかげっている。
―男はその手で、ゆっくりとオレの左手を握り締めた。
「…っぐあぁ!!」
締め付けられる。
まるで手の上に、突然、巨大な岩が落ちてきたかのようだ。
…オレの左手は数刻ともたずに、大木が切り倒される時のような、妙に鈍い音を立て、へし折れた。
「…脆いだろう?」
男の手が、次はオレの右手を握る。
「…お前達は、ここまで脆いのだ。」
…言葉にたがわず、容易く折れた。
が、分かっていれば、耐えられる。
…オレは今度は悲鳴をこらえ、奴の目を、しっかりと睨みつけてやった。
「…?」
僅かに驚いたような表情を見せる、奴。
「…なぜ逆らう?なぜ喰らい付く?」
奴の手が、今度はオレでは無く、隣で震えている清明の左足へ伸びる。
…清明が短く、ヒッと悲鳴を上げたのが聞こえた。
―しかし奴の目は、これから危害を加える清明では無く、依然、オレの方を見たままだ。
まるで、どうでるか、と問いかけているかのように。
…悩むことではない。オレのすることは一つ。
「…っあ!!」
身を一瞬引き、渾身の力をこめて、目の前にある奴の鼻面に、頭突きをかましてやった。
―近づきすぎていたのが、運のつきだ。
「…クク。」
押し込めるような、笑い声。
…無傷、だった。
「…な。」
「…っくうぁぁ!!」
オレの感嘆符に重なる、清明の鋭い悲鳴。
…反射的に振り向いたオレの目線の先で、清明の白い足が、妙な方向にねじれていた。
目の前の奴は、再度、試すかのような光を、瞳に浮かべている。
「…っぉお!!」
オレの中で、何かが弾けた。
…抑えようも無い量の気魂が、体の中心からせりあがってくる。
―躊躇いなど無い。
オレは、圧倒的な気魂の奔流に、ゆるやかに、身を任せた。
「…なるほど、な。」
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