■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

時代錯誤 作者:pu-pa

第23回   第三部 第三話
―オレのささやかな「攻撃」に対し、さらに目をスッと細める、奴。

握った手の中の、最早柄しか残っていない相棒。

―オレは、その両方を見て、絶望した。

奴は、清明の方を向いていた目を、体ごとこちらへ向けてくる。

「・・・・。」

―そして、唐突に、ニッと微笑んだ。

奴の表情の変化、一つ一つに呼吸が止まってしまう自分が、何とも情けなく思う。

「…愚かだな。人間。」

眩いばかりの光を放出していた左手の、すでにその光はかげっている。

―男はその手で、ゆっくりとオレの左手を握り締めた。

「…っぐあぁ!!」

締め付けられる。

まるで手の上に、突然、巨大な岩が落ちてきたかのようだ。

…オレの左手は数刻ともたずに、大木が切り倒される時のような、妙に鈍い音を立て、へし折れた。

「…脆いだろう?」

男の手が、次はオレの右手を握る。

「…お前達は、ここまで脆いのだ。」

…言葉にたがわず、容易く折れた。

が、分かっていれば、耐えられる。

…オレは今度は悲鳴をこらえ、奴の目を、しっかりと睨みつけてやった。

「…?」

僅かに驚いたような表情を見せる、奴。

「…なぜ逆らう?なぜ喰らい付く?」

奴の手が、今度はオレでは無く、隣で震えている清明の左足へ伸びる。

…清明が短く、ヒッと悲鳴を上げたのが聞こえた。

―しかし奴の目は、これから危害を加える清明では無く、依然、オレの方を見たままだ。

まるで、どうでるか、と問いかけているかのように。

…悩むことではない。オレのすることは一つ。

「…っあ!!」

身を一瞬引き、渾身の力をこめて、目の前にある奴の鼻面に、頭突きをかましてやった。

―近づきすぎていたのが、運のつきだ。

「…クク。」

押し込めるような、笑い声。

…無傷、だった。

「…な。」

「…っくうぁぁ!!」

オレの感嘆符に重なる、清明の鋭い悲鳴。

…反射的に振り向いたオレの目線の先で、清明の白い足が、妙な方向にねじれていた。

目の前の奴は、再度、試すかのような光を、瞳に浮かべている。

「…っぉお!!」

オレの中で、何かが弾けた。

…抑えようも無い量の気魂が、体の中心からせりあがってくる。

―躊躇いなど無い。

オレは、圧倒的な気魂の奔流に、ゆるやかに、身を任せた。

「…なるほど、な。」

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections