月明かりにに浮かんだ、奴の姿。
蒼髪に、金の瞳を持つそれは、少なくとも、日の本の人間では無い。
というよりも。
…オレは今、魂を飛ばしかねないほどの恐怖におそわれていた。
清明がいるから、逃げられないとか、そういう訳では無い。
…動かないのだ。足が。手が。視覚を除いた残りの感覚がすべて吹き飛んでいた。
いつの間にか、自分も清明と同じ体勢で座り込んでいることに気づく。
圧倒的、という次元では無い。
先が見えない。限界が見えない。見えないのだ。
…地で生を営む、すべての生き物を遥かに凌駕した、存在。
「…何だ、貴様ら。」
…ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる、奴。
未だに手足は機能を失っており、凍りついたかのように動かない。
恐怖で千切れてしまった、という、あり得ない想像さえ浮かんでくる。
「…陰陽師、か。」
今や目の前まで迫ってきた奴は、座り込むオレの清明に、目線を合わせるかのようにしゃがんだ。
…そして、じっくりとオレと清明の瞳を、交互に見つめ始める。
「…低級なカス共ばかり相手にして、楽しいか?」
―金色の瞳の奥には、試すような光など、一切無い。
単純に、ただ単純に質問しているのだ。
…そういう意味では、そこら辺で道を尋ねる一般人と変わらない。
問題は、天を貫かんばかりの、気魂。そして、閃くような、金色。
―本気で尋ねるような内容では無い。
「…なぜ、お前ほどの者が、かような所にいるのだ…?」
オレが恐怖に打ち震え、心の臓が荒波のような脈動を奏でている中、、
隣の清明は、豪胆にも、掠れた声で言い放った。
…その質問に対し、わずかに目を細める奴。
「…質問しているのはオレだ。答えろ。」
清明の、勇気を振り絞った問いに対しての答えは、叩きつけるかのような言葉だった。
「…っ。」
喉をつまらせる清明。
触れ合ってなどいないのに、清明の体の震えが、空気を介して伝わってくる。
「…ちっ。」
奴はかすかに首を傾け、清明の顔を見、舌打ちを一つ、ついた。
…そして。
気だるげにゆっくりと腕を振り上げ、拳に力を込める。
…輝いている。
まるで、日輪のように。
松明を捨てたことにより、月明かりのみが照らしていた楼閣の中が、昼のように明るくなった。
…常識を、陰陽道という物理現象を、悠々と無視した量の気魂。
伝わる破壊力。
「…オレの問いに答えられねぇなら、死ね。」
…「死」。
簡単に口にして良い言葉では無いし、素手の拳を振り上げて語る言葉でも無い。
…しかし、コイツは、それを可能にするのだ。
何とも簡単な事。
今振り上げている拳を、振り下ろせば良い。
それだけで、清明を含む、周囲の生き物すべてが、死滅するだろう。
「…っあ!!!」
気づいたときには、オレは座った状態のまま、奴の胴体に、居合い抜きをしかけていた。
―恐怖に駆られた、愚かな行動。
…オレの見ている前で、数多の人を切り裂いた我が相棒が、簡単に砕け散った―。
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