―羅生門。
都の入り口に存在する、巨大な番門。
ある有名な大工が腕によりをかけた、一種の芸術品とさえ言える建造物。
漆塗りの柱に、細かい芸を凝らした装飾を有し、威風堂々と建つ。
圧倒的な存在感を誇るそれは、都に出入りする人々を長い間見守っている。
と、文献には記されている。
…しかし。
最近の都の乱れ具合は、その美しさを保つ事を許さなかった。
…手入れを怠った象徴として、目に眩しかった漆はとうに剥げ落ち、すっかり荒れ果てた門柱。
…そしてその楼閣の内部には、数多の屍が横たわっている始末。
かつての威光はすでに無く、あるのは空虚な姿と、混沌とした腐乱の匂いのみ。
―まさに、都の衰退をその身を持ってして、現しているかのように。
そう。
普通ならば、かような所になど、踏み入るどころか近付きたくさえ無いだろう。
…しかし。
しかし、である。
今、二人の男女が、この門の楼閣へと上がる梯子に、足をかけていた。
二人は小声で囁きあい、松明の光をユラユラと揺らしつつ、着実に楼閣の内部へと上がっていく。
―志士堂真と、阿部清明。…陰陽師である。
羅生門に、鬼が住む。よってこれを、退治せよ。
…と、宮から勅命が下った当日。
二人は、日が暮れてからすぐに、件の羅生門へ訪れているのだ―。
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