―まぶたが熱い。
それに気づいた瞬間が、つまりは、オレがその日、目覚めた時間。
立ち上がるにも体がダルイ。本当はもう一眠りしたいが…。
―強い日差しを警戒して、ゆっくりと目を開く。
案の定、窓から差し込む光が、ジリジリと、オレの顔面に降り注いでいた。
となると、時刻はおそらく、牛の刻(午前11〜午後1時)。
―二度寝するには少々遅すぎる時間帯だろう。
オレは名残惜しい布団の温もりを離れ、とりあえず表に出るコトにした。
朝露などはとうに乾き、畑仕事にせいを出す農民たち、騒々しく鳴く蝉に、走り回る子供たち。
―まぁ、いいや。見慣れた風景。今更眺めるほどのモノでも無い。
家の裏にある井戸から桶で水を汲み、顔を洗っていると、気づく。
―鼻腔の奥にのこる、強い、血の匂い。
「仕事」のあった日からしばらくは、この匂いに悩まされるコトになる。
―遠い記憶だが、新米の頃は、これのせいで飯もろくに食えなくなったモノだ。
しかし、今はこの匂いにも慣れ、時には気分を高めるために、あえて意識するコトさえある。
―まぁ、これ以上語るとダレも寄らなくなるので、、一まず置いておくことにしよう。
話は変わるが、実は、最近のオレには、ひそかな拠り所がある。
―仕事の関係で出会い、それ以来意気投合した奴の家。
今日みたいに仕事が空いた日は、度々寄るコトにしている。
そいつの家は広く、そいつの身分も、それなりに高い。
―本当は、オレみたいな一般市民が立ち入っていいはずの所ではないはず。
しかし、そいつは、そういうコトを、気にも留めていないようだ。
―名を、安倍晴明、という。
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