新築されたばかりのこの家の門は薄情にも、音を立てる事無く、開いたらしい。
―そして、廊下をこちらに向かってくる音もほとんど聞こえぬ。
間違いなく、「仕事」に慣れた、手練れだ。
―傍らで寝ている薫を一瞥し、枕もとの刀を取る。
布団からゆっくりと出て、刀を抜き払う。
襖へ歩み寄り、ゆっくりと開く。
…近づいてくる気配。
自分と相手の間にあるのは、曲がり角が一つのみ。
鞘を床におき、曲がり角の方を向いたまま、目を閉じて、待った。
一歩。二歩。三歩。少しづつ、距離が縮む。
―相手もこちらに気づいたらしい。
気配を消すのを止め、水を汲んだ桶のような、スッと張るような殺気が満ちる。
夜の闇を貫き、オレの方へはっきりと放射されているのを感じた。
―目を開く。男が、角から姿を現した。
覆面で顔を隠しているが、あちらもすでに抜刀している。
―これだけの男を雇えるとは、どれほどの者なのか。
「……。」
「……。」
唐突に、相手の目が細まり、そして、廊下を音も無く駆けてきた。
―僅かに空中へ浮かんでいるのではないか、と疑うほどに、見事なまでの、無音。
オレが得意とするコトだ。
…だが。
「…っ?」
相手の男は、驚いたような、かすかに疑問符を感じさせる「悲鳴」を上げた。
…手慣れているのは認めよう。しかし、珍しいほどじゃない。
オレは、刀を握ったままの男の片腕を、音を立てぬように地面へ置き、通り抜けて今は背後に居る奴を見た。
「…っ!」
男が、オレが手に持っていた腕を見た後、自分の腕を見、それから、絶句する。
―オレはそいつの口を塞ぎ、本格的な悲鳴を上げさせないようにしてやった。
…それから、耳元へ優しく囁きかける。
「・・・・。」
男は、簡単に口を割った。
雇い主の名、その住所。
―そう。苦しまぬ、楽な「死」と引き換えに。
オレは薫が目覚めぬ内に、庭へ男の屍を埋めておいた。
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