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時代錯誤 作者:pu-pa

第15回   第二部 第四話
―夕日が沈み、うっすらと闇がたちこめる。

オレはその薄暗さの中を、先ほどの子供と共に歩いていた。

…見れば見るほど、美しい子供だ。

どうしようも無く保護欲をかきたてるような仕草。

眉にかかる程度までのばされた前髪。

今にも泣きそうな所をなだめながら聞いて、やっと名を名乗らせた。

―藤原薫と、いうらしい。

驚いたものだ。

まさか、藤原氏の末裔が身を売ることになっているとは。

まさに盛者必衰。

栄華を極める藤原氏も、伸びすぎた枝の先端までは、面倒を見切れてないらしい。

…しかし、当面の問題は。

「…お前さ、どうする?」

雑踏の中、はぐれぬように手をつなぎながら、足元の薫に問いかける。

…一応、オレの家に招いても良い。しかし、本人の意思が最も肝心だと思う。

まぁ、こんな幼い子供に問いかけるには、かなり酷な質問だというのは、重々承知のうえだが。

「はい…。」

…消え入りそうな声と共に、また泣きそうな顔になり、瞳が潤みだす。

勘弁して欲しい。まるで苛めているみたいでは無いか…。

誰かさんのようだ、とオレは内心で一人ごちた。

「…ん〜。」

オレの思案するような気配を感じ取ったのか、躊躇いがちにオレを見上げる薫。

―媚びるような感じはいっさいないが、瞳が懇願するような光を帯びているように、感じた。

これは何とも、…扱いづらいことこの上ない。

「…とりあえず、オレの家に来てみるか。」

「……。」

オレの言葉が引き金となったのか。

薫は、唐突に、つないでないほうの手を目頭にあて、しゃくりあげ始めた。

―返答は聞けないが、これを返事とみていいだろう。

オレはため息を一つだけついて、闇夜の中を、家の方向へと歩を進めた―。

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―何をしているのだろう。オレは、思った。

襖の間から、細い月明かりが部屋に差し込んでいる。

まだ何も無い、引越ししたての部屋の中心には、宮から支給された、高級布団。

―その中でオレは今、横になっている。それは確かだ。

そして、その行動・体制が意味する、本来の目的は、、休息。…であるべきだと思う。

しかし。

オレは今、休息が出来ていない。いや、出来ない状態にあった。

支給された布団は、オレが橋の下の家で使用していたものに比べると、格段に広い。

足を伸ばしきってもまだ余裕があるぐらいだし、横幅だって十分。

だが、この布団で二人寝るには狭すぎるのだ。たとえ、子供とはいえ。

―そう。今、オレの隣には、スヤスヤと可愛い寝息を立てるもう一人、がいる。

藤原薫。

酒場で助けてから、ほとんど流れとノリで、保護するコトになってしまった。

―身寄りも無く、あても無い。なおかつ、正直言って、女子と見紛うほどの、美貌。

そんな子供が感情を押し隠して、ウルウルと潤んだ瞳を向けてきたら、、

…オレじゃなくても、保護欲が理性を吹っ飛ばすはずだ。

「・・・・。」

目の端には、まだ涙が乾いたあとが残っており、布団の中の小さな両手は、オレの着物の裾を握り締めている。

―別の布団を敷いてやったら、無言のまま、何とも悲しそうな、寂しそうな瞳をしたのだ。

毛布を丸めたのを抱きしめ、隣の布団へ潜り込むオレを、何か物言いたげな目で見つめて。

…もしや、と思い、オレの毛布を軽く上げ、隣を空けてやると…案の定、躊躇いがちにだが、布団に入ってきた。

その時の、嬉しそうな顔と来たら。何とも、扱いに困るものだった。

―が、一抹の幸せをかみ締めている場合ではない。

…このまま済むわけが無いのだ。

おそらく、酒場でこの子を売りさばいていた奴らはおそらく下っ端だろう。

買い手側の男の身なりの良さといい、おそらく、貴族が一枚噛んでいる。

―吐き気がする。どこまで堕ちれば気が済むのだ。

そう。

オレが夢の世界に片足を浸し始めた頃、そいつらは、やってきた。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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