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時代錯誤 作者:pu-pa

第14回   第二部 第三話
「…うむ、かなり上物だな。ここまで美しい子、滅多にいねぇ。」

買い手の、比較的裕福そうな男が、怯えきっている子供の顔を、卑しい顔で見ていた。

―驚いて顔をそらそうとするその子の頬を包み、無理やり瞳を覗き込んでいる。

意地の悪いニヤニヤ笑いを顔に貼り付け、ほとんど泣き出しそうな子を押さえつけて。

…やはり、捨てておけぬか。自分の甘さにうんざりする。

机の上に飲み残してあった酒の瓶を引っつかみ、直にすべて喉に流し込んでおいた。

―何もここで騒ぎをおこさずとも良いが、こういう手合いが一番嫌がるのは「恥」だ。

奴らは、「同業者」に「弱いところ」を見られると、なめられてしまう。
そして、なめられてしまうと、足元を見られて、結局は取り分の金が減る。
そうすれば、悪さをするにも資金が無くて、手詰まりとなるはずだ。

―まぁさすがに、そこまでトントン拍子に上手くいくとは思ってないが…。

…と、無駄な考えに頭を傾けている間に、男達の間で話が進んでいるらしい。

他の荒くれ共の視線を感じながら、オレは真っ直ぐ男達の所へ歩み寄った。

「…やぁ。何の話だ?」

その場の勢いに合わせて、金の相談をしている二組の集団の間に割り込み、双方の顔を交互に見てやる。

面食らったような、買い手の男の顔。そして、不機嫌そうに歪む、売り手の男の顔。

―足元で、子供が驚いたような視線を向けているのを感じる。

一瞬遅れて、店内の男達の好奇の目が、いっせいにオレに降り注いだ。

「うるせぇ黙ってろ。」

これだ。問答も何も無い。

最も、無駄に頭が切れるよりは遥かにやりやすいが。

「てめぇ、ドコの何者だ?」

「…正義の味方だ。」

この一言が、決定的だった。

売り手側の男達三人が、怒りでカッと顔を赤くし、抜刀したのだ。

用心棒の二人は、…動かない。

ふむ。

…酒場の親父が、迷惑そうに顔をしかめるのが見えた。

―どうやら、こういう騒動には慣れているらしい。

益々やりやすい。というより、後の処理が楽で済みそうだ。

「…うぉらぁ!!」

下品な雄たけびと共に、売り手の三人が一斉に切りかかってきた。

―剣術などといった類など全く感じない。まさに、素人が刃物を振り回しているだけだ。

一人目は軽く足をかけてやり、地面へ転がす。

残りの二人は、刀を握っている親指を、普段曲げる方向とは、逆の方向へ導いてやった。

―ほとんど止まって見えるほどの、怠慢な動きだ。容易い。

それだけで、売り手側の三人は、逃げていってしまった。

―良かったというか、面白くないと言うか。

しかし、お楽しみ、もとい、問題はココからだ。

三人の後姿を見送ったオレの背後で、用心棒と思わしき二人が、ゆっくりと抜刀したらしい。

オレが背後を向いている今の隙をついて、閃光のような袈裟切り。丁度、オレの背中を十字に薙ぐ形だ。

…ある程度目が慣れればわかる。

先ほどの男達は、言うなれば「剣」を振り、そして、この男達は「刃」を振るっているのだ。

曖昧だが、大きな違いといえる。

「…っ…!!」

―一般人には決して使うな、と言われているが、仕方無い。

刀に気魂をこめ、振り向きざまに居合い抜きをしかけた。

同じ玉鋼の刀身同士がぶつかりあったように見えたのは、一瞬。

細く、長い余韻を残す音を立てて、用心棒二人の刀は、切り落とされた。

「砕いた」のでは無い。切り落とした。

…驚きで見開かれる用心棒共の顔。

そして、懐から匕首を覗かせていた男が、焦りとも恐怖ともつかぬ表情を浮かべ、急いでそれをしまうのを見届ける。

「…すまん!!」

最後にオレは店主の手の中に財布をまるごと投げ入れ、子供を抱えて酒場からかけ離れた…。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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