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時代錯誤 作者:pu-pa

第12回   第二部 第一話
―引越し。何とも面倒臭い響きの言葉だ。しかし、仕方あるまい。

郊外の橋の下に構えていたほったて小屋を引き払い、荷物を移動する。

川の傍にあったので、夏場は涼しいし、冬場とて、火をたけばそんなに寒くない。

水はけもいいし、塵も…まぁ、多少の罪悪感を我慢して、川へ捨てれば、やがてドコかへ流れ行く。

―そして何より、都の災害や厄介ごとに巻き込まれる心配が無かった。

そんな便利な我が家だったので、正直残念な気持ちはある。

―だが、帝お抱えの陰陽師となったコトで、、宮の近くに住居を用意され、半強制的にそこへ住まわないといけなくなったのだ。

最も、移動する必要がある物と言えば、小さな箪笥だけだったが。

―そして、それさえも、宮から派遣された男達が勝手にオレの新居へ運び込んでしまった。

というわけで、オレは今、新居の広すぎる畳部屋に、一人で胡坐をかいている。

広い庭に、広い部屋に、多くの木々に、多くの間取り。

これだけの広さがあれば、部屋の中で剣の修行をするコトも可能に思える。

―だから貴族は剣術の道場へ赴くのではなく、師範を家に呼びつけるのか、と納得した。

…新しい発見を見つけた。賢くなったな。オレ。

が、それだけだ。

…正直、するコトが無い。

―狭い家に住んでいたときは一体、日がな一日何をして過ごしていたのか、と、自分のことながら疑問に思う。

そして、考え事をしていると、喉がかわく。

…というか、酒が飲みたい。

清明の家で陰陽道を修行している間は、「気魂を練るのに都合が悪い」という理由で、これまた強制的に禁酒を宣告されていたのだ。

「…ったく…みんなオレを縛りやがって…。」

何だか自分が情けない。大の男が、周囲の人々に流されているなど、良い傾向では無い。

…よし決めた。今日は酒を飲みに行く。そして、午後からの清明との修行もすっぽかす。

―子供のような反抗だ、というのは重々承知している。しかし、こうでもしないとやってられないのだ。

オレはとりあえず身支度をすませて、酒場へと向かうコトにした。

…しかしこれが、これから随分後になって、オレの自律の効かぬ欲望が、別の形であったことを知ったのだ。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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