閃く(ヒラメク)ような一瞬の煌き(キラメキ)。
―そしてそれを追うように巻き上がる、血風(ケップウ)。
空に浮かぶ、真っ白な月。
生まれて二日目のその月は、「既朔」と呼ばれる、まるで刃の軌跡のように、細い細い月。
その月の光を浴びながら光る刀身。
そして、標的の体から舞い踊る、羽のような紅。
神速の剣技を持ってこそおこる、その一瞬は、高尚な芸術品でさえもかなわぬ美しさに思えた―。
―しかし、それは、その光景が美しいと思うのは、すでにオレの心が「鬼」と化している、というコトか―。
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場所は京の都。油大路。にぎやかな京の中でも、寂れ気味な場所。
本通りの「朱雀大路」から、八本も東にずれた、細い路地だ。
ココでは、京の中でも貧しい者達が、貧しい家に住む。
そしてなぜか、貧しい者達は、そろってお上が嫌いなもので。
―ゆえにココは、オレ達にとって絶好の「仕事場」となっていた。
もちろん、並みの「同業者」では、標的に悲鳴を上げさせたりして、都の見回り役に捕らえられる。
いくら寂れているとはいえ、都だ。
―暗殺を容認するような真似は、絶対にしない。
つまり、ココが「絶好の仕事場」と成り得るのは、無音で標的を葬る腕と、適した時間が必要だ。
ようするに、オレみたいな、熟練の「腕」と、今の時間帯で、今のような「闇」が必要。
―そういうコトだ。
それはさておき、今宵もオレは、例外無く、音を立てずに、仕事を終えた。
後は夜が明けてから、「依頼主」の家をたずね、報酬を受け取る。それだけ。
一般的に、月に一人とれば、その報酬で暮らせていける。
まぁ、命をかけた仕事だ。そう考えると、安くさえ思えるだろう?
―そうだ。
一つ言いそびれていたな。
オレの名前は「志士堂 真」と言う。
生業は、表向きは研ぎ屋をやっている。勿論本業は、「剣術使い」簡単に言うと、「殺し屋」だ。
あんたも依頼したい時は、来い。
郊外の橋の下に、一応は、居を構えているから。
―じゃぁ、そろそろ夜が明ける。死体が見つかる前に、退散と行こうか―。
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