赤西少年は夕焼けが奇麗な日、近くの河原をジョギングする。
「夕焼け」が好きな彼にとって、この時間はとても楽しく、また、とても和める時だった。
今日の夕焼けは殊に美しかった。
太陽がゆっくりと沈むにつれ、空一面を染めているオレンジと紫の鮮やかなグラデーションが、変化していく。
風は肌に冷たかったが、その夕日の放つ光は眼に暖かかった。
いつもの様に赤西少年がジョギングをしながらやってきた。
しかし、彼の気持ちはいつもの様に楽しくは無かった。
彼は時折、「自分」というモノがたまらなく嫌になる。
そんな時、彼は考える。どうして自分はこんなに不細工なのだろう、と。 背は低いし、毛深いし、顔はいつも皮脂で光っている。
鼻は毛細血管が浮き出て赤いし、くせ毛の髪は、ワックスを付けても殆ど効果が無い。
今、地面を蹴っているこの足だって、短くって、とても見栄えのするモノじゃない。
彼は考える。
自分はどうしてこんな性格なのだろう、と。
彼は人と話すのが苦手だった。
本来は話好きだから、気分のいい時は自然と言葉が出てくる。しかし、専ら彼は人と話をする時、相手と眼を合わせることができず、視線がいろいろな方向へと飛んでいく。特に女の子と話している時は大変な努力を要するのだった。 自分の手が、足が、爪が、胸が、腹が、顔が、そして心が自分の求めていたモノと完全に食い違っていて、どうしてこんな風に生まれたんだろう、どうしてこんな風に生きて来たんだろう、と全てが嫌になる。 大好きな大槻さんは、こんな自分を好きになる筈が無い。彼女が思いを寄せている人は、背が高くて、話し上手で、ハンサムで、運動ができて、毛深くないのだろう。
気分を紛らわすために彼は、鼻歌を歌おうとした。 辛いことを考えない様に、お笑いのネタについて考えようとした。
しかし、どんなメロディーも、どんな話のスジも、何も浮かんで来なかった。
どんな事をしようとしても、浮かんでくるのは大槻さんの好きな人が「いる」と答えた場面と、自分の欠点を表す単語だけだった。
彼は走るのをやめた。ゆっくり走っていた筈なのに、なんだかとても苦しかった。 夕日はあんなに奇麗なのに、なんだかとても悲しかった。
赤西雄飛は泣いた。
中学校最後の文化祭、総合成績でクラスが一位に輝いた時以来の涙だった。
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