受験まであと四ヶ月程度なのに、僕は図書室にあった某マンガにハマってしまった。 お陰で勉強に全く手が着かない。 家で読んでいると親がうるさい。 だから、今日の放課後を使って読み終えてしまおう、と思っていた。 このマンガ、本当に面白い。僕は一人、教室でゲラゲラ笑いながら読んでいた。 すると、突然ドアが開き、大槻さんと星野さん、そして青木空(あおき そら)さんが入って来た。 僕は笑いを飲み込んだ。 一人、マンガを読みながら笑っている所を見られたら、とても恥ずかしい。
「赤西、いたんだ。家帰って勉強しなくてイイのか?」 「あぁ、もうちょっとしたら帰るよ。」
青木さんの質問に僕はそう応えた。 それから三人は開いているイスを見つけると、座って話し始めた。 僕は三人が帰るまで待つことにした。 マンガを読んだら一人笑いが出てしまう。が… 三人はもう既に進路が決定している。大槻さんは指定校推薦で、星野さんと青木さんはAO入試で合格したのだ。 だから3人には時間があり、話そうと思えばずっと話していられるのだ。
五時半を回った。三人は相変わらず楽しそうに喋っている。
僕はいつの間にか聞き耳を立てていた。星野さんが喋っていた。 「…彼氏に聞いたんだけど、夏にブラジャーが透けて見えちゃうことあるでしょ?男子ってそういうのに興奮するらしいよ。」 「へえ〜。」
なんて破廉恥な! と、その時僕は自分のしている行為に気付いた。 ダメだ!他の人の話を盗み聞いちゃ。 確かに大槻さんと星野さんがお笑い番組の話をしていた時に聞き耳を立てていたこともあった。 しかし、今回の場合は内容が過激すぎるし、あまりにもプライベートすぎる! …そう思ったモノの、気付くと僕は聞き耳を立てていた。今度は青木さんが喋っていた。
「…この間、電車を待ってたら地面の通風口から風が出て来たんだ。そしたらスカートがめくれちゃって。一緒にいた彼氏にすっごいサービスしちゃった。」
僕は鼻の奥から何やら液体が流れてくるのを感じた。 慌ててティッシュペーパーを取り出し、鼻に押し付ける。みるみる内にティッシュが赤く染まっていく。 帰ろう。これ以上ここにいたら変態扱いされかねない! 僕は、片手でマンガを鞄に押し込んだ。 が、その一瞬後、僕の耳に重要な言葉が聞こえてきた。
「そう言えばミツって好きな人とかいないの?彼氏いないのは知ってるけど。」
僕は半分浮かしていた尻を元に戻した。 盗み聞きがいけないのは分っている。 しかし、どうしても体が動かなかった。
「私はね…」
大槻さんが話しだす。
お願いだから「いない」と言ってくれ! もし「いる」なんて言ったら僕はその幸せ者を一生恨む事になりそうだ。
「いるよ。」 大槻さんは言った。
僕は目の前が真っ暗になった。 やっぱりいたんだ…大槻さんに好かれている人間が…。
僕は目の奥からも何かが流れてくるのを感じた。
と、同時に僕は廊下に飛び出し、一気に昇降口に向かっていた。
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