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欠点の塊の少年の恋の話 作者:Alan Smithy

第7回   9月
 夕べ、僕は恐ろしい夢を見た。
 その夢がどれほど恐ろしいモノだったか、この登校時間を利用してお話ししたい。
 
 夢は、僕が遊園地のエントランスにいる所から始まった。
 暫くすると、向こうから大槻さんが走ってきた。
 彼女は僕の近くまで来ると、

「ごめんね。遅れちゃった。」

と、言った。
 そうか。何故か僕と大槻さんは付き合っていて、今日はデートの日なのだ!

「大丈夫だよ。僕も今来た所だから。」

 僕達は手をつないで遊園地に入っていった。


 とても楽しい一日だった。メリーゴーラウンド、コーヒーカップ、お化け屋…僕たちは遊園地のアトラクションを片端から制覇していった。
 普段、女の子と話すのが苦手な僕だけど、この日は全く打ち解けて話ができた。僕のギャグに、大槻さんは大いに笑ってくれた。
 僕は幸せの絶頂にいた。


 夜になりパレードが始まった頃、僕達は漸く最後のアトラクション「フルムーン」に辿り着いた。それは巨大な観覧車で、パレード見物に持ってこいだった。
 観覧車がゆっくりと上っていくにつれ、視界にパレードの色とりどりの明かりが広がっていった。それはまるで宝石をばらまいた様で、とてもロマンチックだった。

 二人とも、しばしその美しさに黙って見とれていた。観覧車の中には、満足感と達成感、そして何かとても幸せな空気で満ちていた。
 やがて僕は言った。

「今日はとても楽しかったね。」
「うん。凄く良い一日だった。ありがとう。」

 大槻さんはニッコリ笑ってそう言ってくれた。

「また今度来たいね!」

 僕は期待を込めてそう言った。すると、大槻さんが急に俯いた。

 そして静かにこう言った。
「それはダメ。」

 僕は自分の耳を疑った。

「…えっ?」
「私達、やっぱり付き合えないわ。」

 僕はこの信じられない展開にしばし言葉を失っていた。
 観覧車は下りに入っていた。


「ど、どうしてなの?」

 気分が大分落ち着いてきた僕は聞いた。

「だってね…

 赤西君、鼻毛が出てるんだもん。」
 
 僕は慌てて鼻に手をやった。
 黒いごわごわしたモノに指が触れた。
 「鼻毛」…。世間では、それを見ると千年の恋も冷めると言われている。
 僕は事もあろうにその「鼻毛」を鼻からボウボウ生やしていたのだ!


 観覧車が最下層につき、ドアが開いた。
 大槻さんは、「ごめん」と短く言うと、走り去った。

 
 待ってくれ〜!!



 …ここで夢は終わった。僕は冷や汗をびっしょりかいていた。夢で良かったと心底思った。

「おっはよー!赤西君!」

 後ろで声がした。振り返ると、大槻さんと星野さんが、自転車の二人乗りをしながらやって来た。
 僕はビクリ賭して立ち止まってしまった。落ち着け、落ち着くんだ。あれはあくまで夢だったのだから。
 僕を追い抜くとき、大槻さんが

「急がないと遅刻するよ〜。」

と注意してくれた。星野さんも笑いながらがこんなことを言った。

「赤西君、鼻毛はちゃんと切っとこーねー。」

 僕は慌てて鼻に手をやった。
 
 指が細長いモノに触れた。

 鼻毛が一本出ていたのだった…。


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Novel Editor by BS CGI Rental
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