夕べ、僕は恐ろしい夢を見た。 その夢がどれほど恐ろしいモノだったか、この登校時間を利用してお話ししたい。 夢は、僕が遊園地のエントランスにいる所から始まった。 暫くすると、向こうから大槻さんが走ってきた。 彼女は僕の近くまで来ると、
「ごめんね。遅れちゃった。」
と、言った。 そうか。何故か僕と大槻さんは付き合っていて、今日はデートの日なのだ!
「大丈夫だよ。僕も今来た所だから。」
僕達は手をつないで遊園地に入っていった。
とても楽しい一日だった。メリーゴーラウンド、コーヒーカップ、お化け屋…僕たちは遊園地のアトラクションを片端から制覇していった。 普段、女の子と話すのが苦手な僕だけど、この日は全く打ち解けて話ができた。僕のギャグに、大槻さんは大いに笑ってくれた。 僕は幸せの絶頂にいた。
夜になりパレードが始まった頃、僕達は漸く最後のアトラクション「フルムーン」に辿り着いた。それは巨大な観覧車で、パレード見物に持ってこいだった。 観覧車がゆっくりと上っていくにつれ、視界にパレードの色とりどりの明かりが広がっていった。それはまるで宝石をばらまいた様で、とてもロマンチックだった。
二人とも、しばしその美しさに黙って見とれていた。観覧車の中には、満足感と達成感、そして何かとても幸せな空気で満ちていた。 やがて僕は言った。
「今日はとても楽しかったね。」 「うん。凄く良い一日だった。ありがとう。」
大槻さんはニッコリ笑ってそう言ってくれた。
「また今度来たいね!」
僕は期待を込めてそう言った。すると、大槻さんが急に俯いた。
そして静かにこう言った。 「それはダメ。」
僕は自分の耳を疑った。
「…えっ?」 「私達、やっぱり付き合えないわ。」
僕はこの信じられない展開にしばし言葉を失っていた。 観覧車は下りに入っていた。
「ど、どうしてなの?」
気分が大分落ち着いてきた僕は聞いた。
「だってね…
赤西君、鼻毛が出てるんだもん。」 僕は慌てて鼻に手をやった。 黒いごわごわしたモノに指が触れた。 「鼻毛」…。世間では、それを見ると千年の恋も冷めると言われている。 僕は事もあろうにその「鼻毛」を鼻からボウボウ生やしていたのだ!
観覧車が最下層につき、ドアが開いた。 大槻さんは、「ごめん」と短く言うと、走り去った。
待ってくれ〜!!
…ここで夢は終わった。僕は冷や汗をびっしょりかいていた。夢で良かったと心底思った。
「おっはよー!赤西君!」
後ろで声がした。振り返ると、大槻さんと星野さんが、自転車の二人乗りをしながらやって来た。 僕はビクリ賭して立ち止まってしまった。落ち着け、落ち着くんだ。あれはあくまで夢だったのだから。 僕を追い抜くとき、大槻さんが
「急がないと遅刻するよ〜。」
と注意してくれた。星野さんも笑いながらがこんなことを言った。
「赤西君、鼻毛はちゃんと切っとこーねー。」
僕は慌てて鼻に手をやった。 指が細長いモノに触れた。
鼻毛が一本出ていたのだった…。
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