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欠点の塊の少年の恋の話 作者:Alan Smithy

第5回   7月
 僕の学校では、国語の授業の始めに「三分間スピーチ」なるモノを行う。クジで決めた順にそって、毎時間、自分で決めたテーマについて三分間語るのだ。
 今日は僕の番。
 実は僕、大勢の人の前で喋るのが大変苦手である。そういう状況になると「本当に」言葉が出なくなる。
 以前やったスピーチは悲惨だった。なんと五十分間何も喋れず、授業を丸々潰してしまったのだ。
 今回のスピーチこそ完璧にする!と僕は心に誓っていた。
 そこで、テーマを自分の得意分野、つまり「お笑い」に設定。
 一週間かけて、何十回も推敲し、完璧なスピーチ原稿を作り上げた。先ず僕がお笑いを好きになったいきさつを語る。続いてお笑いのウンチクを少し盛り込み、皆の興味を更に引き付ける。最期に、お笑いの素晴らしさを語り、僕のお笑いに対する熱意を皆に知ってもらうのだ。ラストの決めも考えてある。

「お腹の底から笑うことは、お腹の底から幸せになることです。」

 う〜ん、一週間考え続けただけあって、完璧な締めだ。僕は意気揚々と本番を迎えた。
 

 先生が教室に入って来た。
「え〜、では早速三分間スピーチから始めるぞ。今日の順番は、え〜…赤西か…。」
「はい!」

 僕は元気よく返事をし、立ち上がる。前回の失態を知っている人たちの間で、何やらぶつぶつ言うのが聞こえた。が、僕は一向に気にしない。見てろよ〜。今日の僕は今までの僕とは違うんだ!
 
 この日のために調べておいた、緊張対策を全てやる。「人」という字を三回書いて飲む。軽いストレッチをする。深呼吸をする…などなど。
 皆の前に立つ。ここで最後の対策として、皆を「ジャガイモ」だと思う様に、自分に言い聞かせる…。目の前に広がる芋、いも、イモ。今の僕には「緊張」という二文字は存在しなくなった。
 僕は語りだす。この日のために三百回も重ねた原稿読み練習の成果が発揮される。僕が「きちんと話している」のを聞いて、皆が驚いているのが、感覚として解った。どうだ!僕だってやればできるんだ。僕は得意になった。二、三個でやめようと思っていたウンチクを十個も語ってしまった。僕のお笑いに対する思いも予定よりも大幅に長く語ってしまった。流石に長すぎるかな、と思った僕は、最後の締めに入る事にした。
 
 その時、僕はどういう訳か大槻さんの方を見てしまった。
 それが間違いだった。いいですか?よく考えてみてください。
 意中の人を、「ジャガイモ」なんかと見なす事ができますか?

 僕にはどうしてもできなかった。だから、彼女だけは「人間」のままだった。大好きな、あの「大槻さん」の姿のままだった。僕の緊張は一気に頂点に達した。いきなり言葉が出なくなった。
「お、お、お、お、お、おな…」

あぁ、大失敗…。


 しかしながら、練習をしていた甲斐あって、何とか僕は最後まで言い切った。スピーチの始めから終わりまで、四十八分と三十秒もかかったが…。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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