二年生の時に行った沖縄修学旅行の写真が漸くできた。写真屋さんに赤ちゃんができたとかで、現像が数ヶ月遅れてしまったのだ。
「写真は教室の後ろに貼っておく。欲しい写真があったら私のところまで言いにきてくれ。」
担任の時雨先生が言った。
休み時間になり、クラスのみんなは写真の所に集まってきた。僕も自分が写っている写真を探し始める。…良い写真がない。僕が写っている写真はどれも、腕だけとか足だけとかしか写っていなかった。 あぁ、ガッカリ。 僕が自分の席に戻ろうとした丁度その時、海野が叫んだ。
「おい、みんな!コレ見てみろよ!心霊写真があるぞ!」
クラスの皆は海野の所に集まって行く。僕も興味が湧いてきたので、行ってみる。 写真には三人の男子と、星野さん、そして大槻さんが、青い海をバックに写っていた。皆、とても楽しそうにニコニコしている。しかし、その雰囲気をぶち壊す様に、大槻さんと星野さんの間から不気味な手が突き出ていた。
「何これ!」
星野さんが怒った声で言う。他の人達も口々に自分の感想を述べる。そして、大槻さんも、
「何だか恐いね…。」
と、呟いた。そして訪れる沈黙。
「…そういや俺、こんな話を聞いたことがある。」
皆が海野の方を見る。彼は真剣な顔をしている。
「この海岸、秋になると凄く荒れるから、秋にこの海で泳ぐことは禁止されてるんだ。でも、せっかくの荒海。毎年、命知らずのサーファー達が監視の目を盗んでやってくる。」
皆も真剣に海野の話を聞いている。誰一人喋らない。。
「しかし、とうとう一人のサーファーが命を失った。明るい陽気な青年で、サーフィンの腕もかなりのモノだったらしい。多分、運が悪かったんだろう。」
海野が言い止んだ。今まで俯きながら話していた彼が、顔を上げる。皆は彼の顔をみてハッと息をのんだ。彼の顔はヒドく青ざめていた。
「ところが、それ以来奇妙な出来事が起こる様になった。この海岸で写真を撮ると、彼の体の部分が写るんだ。…ここを見てくれ!」
海野が不気味な腕を指差した。
「緑色の腕時計が写ってるだろ?これは彼が死ぬ時に付けていたモノと全く同じなんだ!」
皆が叫び声をあげる。しかし、一番怖がっているのは大槻さんと星野さんだ。二人の顔は真っ白だった。
僕もとても怖かった。「写真の腕が幽霊の腕だ」ということが怖かったのではない。「写真の腕が僕の腕だ」ということ、それを誤解してクラスが大混乱を来していることが怖かったのだ。
実は僕もこの写真を撮る時にいた。しかし、身長百六十センチの僕は、身長百七十二センチの星野さんの影に隠れてしまった。僕は何とか写ろうと必死に腕を伸ばした。緑色の腕時計をはめた右腕を。
海野が腕時計に気がつかなければ、僕もみんなと一緒に「純粋に」怖がっていられたのに!
泣き出す子も出てきた。気分が悪くなってトイレに駆け込む子も出てきた。もはや僕が真実を告白する余地はない。
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