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欠点の塊の少年の恋の話 作者:Alan Smithy

第3回   5月
 たいていの高校にある行事「球技祭」。僕の高校はバレー、サッカー、バスケ、の三種目がリーグ戦形式で競われる。この行事は運動神経のいいヤツらの独壇場だ。しかし、運動神経の悪い僕にとっては単なる苦痛でしかない。さらに、運の悪い事にはこのクラスの仲間達は皆、運動神経がバリバリに良いのだ。あぁ、今年も僕は応援だけか…。


「がんばってー!」「そこだ!いけぇ!」

自分達が出る種目の合間は皆、応援に熱心になる。男子も女子も大きな声でクラスメート達を応援している。勿論、僕も一生懸命応援している。しかし、さすがにバレーを三回、バスケを二回も見ていれば気持ちも冷めてくると。四回目のサッカーの試合を見ている僕は、皆の様なテンションにはどうしてもなれなかった。僕はぼんやりしていた。

 ピーッ!

 と、突然笛が鳴った。僕はふと我にかえった。周りではクラスの皆がざわめいている。一体どうしたんだろう?

「どうやら秀十が捻挫したみたいだぞ。」

クラスのエース葦野秀十(あしのしゅうと)が捻挫…。

「秀十の代わり、どうする?」
「やべぇ!俺、次の種目にいかなきゃ!」
「げっ!俺もだよ。」

 悪い事は重なるモノで、クラスの男子は皆、各々の種目をすぐ後に控えていた。

「赤西、お前が出ろ。」

 秀十が言った。僕は自分の耳を疑った。僕だけではない。他の皆も信じられないという顔で秀十を見ている。秀十は続ける。

「強敵の三Fに勝つためには十人じゃ絶対に無理だ。ここは赤西にかけてみよう。」

 皆が賛成する。僕は恐ろしい事にクラスのエースの代わりを務める事になった。
 

 案の定、僕は全く役に立たなかった。ボールを貰ってもすぐに取られるし、シュートをうとうと踏ん張るとスカしてしまう。あげくの果てに、僕は相手に押されて頭から転んでしまった。
 もう無理だ…。だいたい運動神経ゼロのヤツがエースの代わりになれる訳が無い。その時だった。僕の耳にある声が聞こえてきた。

「赤西くーん!頑張れー!」

僕は声の方を振り向く。大槻さんが僕に向かって手を振っている。大槻さんが僕を応援してくれているんだ!
 僕の中で何かが燃え上がった。前進に力が湧いてきた。僕はボールに向かって走り出した。相手チームのフォワードからボールを奪う。普段ならこんな事はできないのだが、今の僕は普段とは違った。そのままドリブルでゴールに向かう。ボールを奪おうと人が押し寄せてくる。しかし、愛の力で満ちた僕を止められる者はいない。僕はあっという間にゴールにたどり着いた。キーパーが飛び出してくる。僕は瞬間的に右に避け、キーパーをかわした。そして…ゴール!やった!この僕が得点を決めたのだ!僕は飛び跳ねて喜んだ。
 が、何か様子がおかしい。当然聞こえる筈の歓声が全くない。僕は応援者達の方を見た。

 しまった…。僕は自分のしでかした事に気がついた。僕はシュートを叩き込んだゴールを振り返る。そこは見方のゴールだった…。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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