掃除の班は毎週頭にクジで決まる。教室掃除は退屈極まり無いので、只でさえ嫌な掃除の中でもワースト1の場所だった。 だから「教室」と書かれたクジを引いた時、僕はとてつも無く不快だった。 しかし、一分後に奇跡が訪れた!憧れの大槻さんが僕と同じクジを引いたのである。なんという幸運! とうとう大槻さんと一緒になるチャンスが到来したのだ!僕は教室掃除になった事を心から喜んだ。 ところが… 基本的に女の子と話す事が苦手な僕は、この千載一遇のチャンスを活かせないまま、四日間を過ごしてしまった。 毎回僕が辛うじて言えた言葉は、「ちりとり使う?」というモノだけだった。 今日は金曜日。 来週になれば再びクジ引きが行われ、僕はもう二度とこのような幸運に巡り会えないだろう。 つまり、今日こそが大槻さんと話せる最後の日なのである。でも、何を話せばいいんだ?僕は授業そっちのけで必死に「話題」を考え続けた。あぁ、どうしよう、どうしよう…。何かきっかけさえあれば…。僕は教室の床を掃きながら考え続けた。と、その時…
「ねぇ、ミツ。昨日の『お笑い天国』見た?」
同じ教室班の星野さんが、大槻さんに話しかけた。
「うん。見た見た!面白かったよね〜。」
僕の頭の中で何かがきらめいた。お笑いが大好きな僕は、お笑い番組は全て網羅している。「お笑い天国」も勿論例外ではない。そして今、僕の得意分野の範疇に大槻さんが入ってきた。これは話をするための絶好のきっかけになる!星野さんが続ける。
「私、もう爆笑でさ!私、『ラフターズ』が一番好き!ミツはどこが好きなの?」 「えっとね、私は…」
僕の動きが止まる。大槻さんが自分の好きなお笑いグループの名前を言おうとしている。僕は全神経を耳に集中した。
「私が一番好きなのは『ですよね〜ズ』かな。」 「そのお笑いコンビ、面白いよね!僕も大好きだよ。」
大槻さんが僕の方を振り向く。
「ホント?赤西君もそう思う?」 「うん!昨日のネタは最高だったよ。」 「そうだよね!私、笑いすぎて涙が出ちゃった。そういえば、赤西君はお笑い系に詳しいよね?」
大槻さんの問いに僕は内心「その通りさ!」と自負しながらも、謙虚に応えた。
「それほどでもないけどね。」 「またまたぁ。皆言ってるよ。『お笑いなら赤西に聞け』て。私もね、最近お笑いにハマりだしちゃってさ。だから、今度イロイロ教えてよ。」
僕は胸を張って答えた。
「もちろん!」
と、まあこんな感じになる筈だった。僕のシナリオでは。しかし、普段から女の子と話す事に「耐性」ができてしまっている人間にとって、こんな会話をいきなり始めるのは至難の業だ。 実際に僕の口をついて出た言葉(しかも緊張のあまりどもって出た言葉)は以下の様なモノだった。
「ち、ちりとり使う?」
この後、月曜日のクジ引きで、大槻さんと掃除班が別々になった事は言うまでもない。そして案の定、それからもう二度と、大槻さんと同じ掃除班になっていない。
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