「今日は予定していた内容より話が進んだから少し雑談でもしようかな。えー、君達シンクロニシティって言葉を知ってるかな?」
授業中の合間、先生は僕達ににそう聞いた。 なんだそれと僕は心の中でそう思ったいた。 そんな事より僕は彼女のことのほうが気になっていた。 彼女の名前は柏木真理亜。ある日、親の都合で転校して来た彼女はその日から人気者だった。そして美人でやさしく誰からも好かれている、特に男子からは。もちろん、僕もその中の一人だった。でも、たぶん彼女は僕になんか興味は持ってないだろう。僕は、勉強もスポーツも苦手でおとなしく地味なやつだ。友達も無く、放課後はいつも図書室で一人で本を読んでいるのが常だった。
「日本語で言うと共時性。もっとくわしくいうと意味のある偶然の一致。心理学者のカール・グスタフ・ユングの造語だ。世の中には信じられない偶然というものがある。君達もそんなときはこの言葉を思い出すといいだろう。それじゃあ、今日の授業はこれでお終い。みんなちゃんと次の授業の予習してくるようになー」
授業が終わり放課後になると僕はいつものように図書室に向かった。 そして本棚から本を取り、机に座ると僕はいつものようにただ黙々と本を読み始めた。それは読書というより時間を潰すためのただの作業に近かった。友達も無く、他にすることが無い僕はいつもこうして閉校までの時間を過ごしていた。そしていつものように時間が過ぎて、閉校のアナウンスが流れた。気がつくと図書室には僕一人しかいなかった。僕は読んでいた本を借りて帰るために、図書室の隣の司書室によることにした。本を借りるときはそこの司書の先生に本を借りるための手続きをする決まりになっていた。
「失礼しまーす」
僕はそういって司書室の戸をあけた
「はーい」
そこにいたのは司書の先生ではなく、なんと柏木真理亜だった。 僕は一瞬驚いたけど、平静を装って話しかけた
「あれ、司書の先生いないの?柏木さんだけ?」
「うん、そう。先生今日は休みだよ。」
「そっか。柏木さんてよくここに来るの?」
「うん、最近時々ね。本当はダメなんだけど、たま遊びに来てるんだ。こっちだと新しい本がすぐに読めたりするし、図書室より落ちついて本が読めるからね。ところでなんか用事あってきたんじゃないの?」
「うん、本借りるつもりで来たんだけど先生いないならしょうがないな」
「それなら私が代りにやってあげるよ。先生には後で私がゆっといてあげるから」
「そう、それじゃあお願いしようかな。この本なんだけど」
そう言って僕は本を彼女に渡した。
「え、うそ、この本読んだの?私もこの本好きなんだ。私のお気に入りの1冊なの。主人公の一途な思いが凄くいいよね」
「いや、あの、僕はまだ読んでる途中だから」
僕は少し戸惑いながら答えた。
「あ、そっか、そうだね。ごめんね」
「ううん、気にしないで。途中までしか読んでないけど、結構面白いよね」
「そう言ってもらえると嬉しいな。」
彼女はそう言って微笑んだ。 貸し出しのための手続きをしながら彼女は質問してきた。
「柳くんていつも図書室に来てるの?」
「うん。放課後は大体ね」
僕は地味で目立たない僕の名前を、彼女が知っていたことに少し驚きながらそう答えた。
「そっか、私は昼休みに本借りにくることが多いんだ。だからあんまりあったこと無かったんだね」
「そうなんだ」
「お父さんが学校が終わったら早く帰ってきなさいってうるさいから、放課後はまっすぐ家に帰って昼休みに借りた本を読んでるだ」
「ふーん」
「ねえ、柳くんは本を読み始めるときってどんなこと考えながらよみはじめる?」
「えっと、特になにも考えないでよんでるけど」
僕は答えに窮してそう答えた。
「私はね、新しく本を読むときって運命的な出会いを期待しているの。この本を読むことは自分にとってなにか意味のある出来事なんじゃないかって。登場人物の心理描写が自分の心と重なった時なんか凄い興奮しちゃうんだ。この作者は自分の心を理解してくれてるって。そんな時は確信するのこの本と私の出会いは運命なんだって」
彼女は興奮して言葉が少し乱れた。 僕は言った。
「本が好きなんだね」
「うん、そうなの。ごめんね、変なこと言っちゃって。やだなー私ったらなに言ってんだろ。」
「ううん、そんなこと無いよ。それじゃ僕はこの本借りて帰るとするよ」
「うん、またね」
「じゃ、バイバイ」
僕は彼女の知られざる一面を見れたことに満足していた。 そして、授業中に聞いた先生の話を思い出した。 さっきのシンクロニシティは僕に何かの変化を与えた、そんな気がしていた。
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