私は小説家志望のサラリーマンだった。仕事をしながら合間に小説を書き、色んな賞などに投稿していた。だが、いつも結果はかんばしくなく、予選を通過することすらまれだった。私は失望していた。きつい割に金にならない仕事にも、自分の文才の無さにも。 ある日、私は骨董屋でつぼを買った。一見なんの変哲も無い古臭いつぼにしか見えなかった、だが何故か私はそのつぼに心を奪われてしまったのだ。そのつぼにはふたがついていて、厳重に封がなされていた。そして良く見ると、「このふた開けるべからず。開けたものには災いが降りかかるであろう」と小さく書かれていた。しかし、私は家に帰ると好奇心からそのつぼのふたを開けてしまった。 すると、つぼから煙が噴出しそれとともに何かが現れた。
「ふー、久しぶりにシャバに出られたぜ。やっぱシャバの空気はうまいな。」
つぼの中から出てきた何かは勝手に喋り出した。 私は勇気を振り絞って声を出した。
「おい、お前。お前は何者だ」
そうするとそいつは答えた。
「俺か、俺は悪魔さ」
私は続けざまに質問した。
「なんでそんなものがつぼの中にいたんだ」
するとやつは言った
「大昔に悪さがすぎてそのつぼに封じ込められたのさ。そうしてその封印をお前が破ってくれたおかげでめでたく外に出られたってわけさ。ところで、封印を破ってくれたお前にお礼をしてやろうと思うんだがどうだろう」
「お礼ってたとえばどんな?」
「そうだな。お前の願い事を一つ叶えてやろう。」
「ふん、そんな古典的な手に乗るものか、願い事を叶えてやったかわりに、後でなにか大切なものを よこせなどというのだろう」
「いやいや、そんなことはない。代償など何もいらない。ただで願い事を一つ叶えてやろう。そのかわり叶えてやれる願い事は一つだけだ。お前がどうしても嫌だというなら、なにもせずこのままこの場を立ち去ろう。よく考えて答えることだ」
私は少しの間迷った、だが考えた後、こう答えた。
「私を小説家にしてくれ」
「その願い事でいいんだな。願い事を叶えられるのは一度きりだぞ」
「ああ、構わん。願い事を叶えてくれ」
「よし、ではその願い事をかなえてやろう」
悪魔がそういうと、急に家の電話が鳴り出した。 私はなんだってこんな時にと思いながらも仕方なく電話に出た。
「もしもし、○○様のお宅ですか?」
「はい、私が○○ですが」
「おめでとうございます、あなたはわが社の新人小説大賞に見事受賞されました。つきましては 、早速なのですが来月から○○様の新作の小説を連載したいのですがお願いできますでしょうか」
私は二つ返事で了承すると、そのまま仕事先に電話をし事情を話し辞職することにした。 私は歓喜して、悪魔に話しかけた。
「すごい本当に願い事を叶えてくれたんだな。ありがとう、こんなに嬉しいことはないよ」
「いやいや気にすることは無い、つぼから出してくれたほんのお礼さ」
「そうか、いやすまないなー、じゃあ早速、新連載の話を書くとするか」
私は机に座り原稿用紙を前に話を考え始めた。だが、いくら考えても考えても話がうかんでこない。私はついにたまりかね、悪魔を怒鳴りつけた。
「おい、悪魔。いくら考えても考えても話がうかんでこないじゃないか。いったいどうなっているんだ」
「俺は約束どうり願い事をかなえてやったぜ」
「じゃあ、なんでいくら考えても話がうかんでこないんだ」
「それはしょうがない、それがお前の才能なんだろうからな」
「どういうことだ。俺を小説家にしてくれるという約束のはずだったろうが」
「ああ、だから俺はお前の願い事を叶えて、お前を小説家っていう立場にしてやっただろう。小説の才能が欲しかったのなら小説の才能が欲しいと、最初からそう言えば良かったのに。まあ、俺が叶えてやる願い事は一度きりだからもうやり直しはきかないがね。クックック」
「ちきしょー、騙しやがったな!」
「まあ、そういうな。憧れの小説家になったんだからな。努力していりゃそのうち才能の花が開く事もあるだろう。じゃーな、あばよ」
そういうと、悪魔はすっと消えてしまった。 私は途方にくれたいた。文才の無い私がどうやって小説の新連載などをしていけばいいのだろう。賞をとってしまった以上下手な小説はのせられない。才能が花開くのなどを待っている暇は無いのだ。元の生活にもどろうにも仕事は辞職してしまった。一体私はこれからどうすればいいのだろう・・・。
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