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ショートストーリー 作者:暗中茂作

第42回   暗中茂作録5
「逃げろ!早く逃げるんだ。早くしないと奴が来る」

「ハアハア、わかってる。これでも急いでるんだ」

彼らは夜の森中を明かりも持たずに奴から逃げ回っていた。

「ジェイクはどうしたんだ?」

「わからん。走ってるうちにはぐれたらしい」

「くそ!どうして?!なんでことになってしまったんだ!」

「俺にだってわからんよ。だが起きてしまったことを悔いてもしょうがない。今は逃げることに専念するんだ」

「ああ。それにしても俺たちはどこに向かって走ってるんだ?」

「まったくわからんよ。地図やコンパスがあるわけでもない。それにこの闇夜じゃあったとしても何の役にもたたんさ」

「まったく、うわ!」

彼は何かにけつまずいて転んだ。

仲間の一人が足を止めて駆け寄った。

「大丈夫か?木の根にでも足を引っ掛けたか?」

そう言って彼は仲間の足元を見た。

「…」

彼は無言のまま少し呆けて(ほうけて)いた

「どうした?お前こそ大丈夫か?」

「…そだ、嘘だ、嘘だああああ!」

彼の叫び声が森にこだました。

「おい、どうしたんだ?なんだ?いったい何があったんだ?」

「回ってたんだ、同じところを…。さまよいながら俺たちは同じところをうろうろしてたんだ。み、見ろこれを」

彼は両手の掌(てのひら)で彼の仲間がけつまずいたものを抱えあげた。

それはかつてジェイクと呼ばれていた者の生首だった。

「な…」

彼は息を呑んだ。

「奴だ、奴の仕業だ。奴がすぐそばにいるんだ。逃げなくちゃ、殺される、殺されちま」

彼が喋ってる(しゃべってる)さなか、彼の背後で何かがひかり、彼の片足を消し飛ばした。

彼の仲間はその光の眩しさ(まぶしさ)に目を細めたが、たしかにその目の中にその姿を捉えて(とらえて)いた

奴だった。

やはり奴は俺たちのことを追いかけていたんだ。

「仕損じた(しそんじた)か」

奴は冷淡な口調でつぶやいた。

「いてぇ、いてぇよー!足が、足が、俺の足が無くなっちまったよ。助けてくれえ、助けてくれよう、奴に、奴に殺されちまうよー」

「案ずるな、今私が楽にしてやる」

奴が何かをするためのような構えを取った。

彼は奴と彼の仲間に背を向けて闇の森の中を駆け出した。

「おい!待ってくれ!俺を見捨てるのか?!行くな、行かないでくれ」

駆け出した彼の背後でまた閃光がほとばしった。

「…ちくしょう、ちくしょおお!」

彼は唇(くちびる)をねじまげ、目に涙をためながらも足を止めることはなかった。

「生きるんだ、俺が…。あいつらの分も」

彼は必死に走った。

だがそれも無駄な徒労だった。

背後から閃光とともに何かが弧をえがいて(こをえがいて)飛んできて彼の走っていた少し前の地面を吹き飛ばし穴を開けた。

彼はその衝撃で背中から木にたたきつけられた。

彼は背中の木に寄りかかって、なんとか立ち上がろうとしたがもはや遅かった。

奴が空の木々の合間から宙(ちゅう)を静かに下りてきた。

「仲間を見捨てて逃げるとは薄情だな」

相変わらずの冷淡な口調だった。

彼は何も言い返さなかった。

「まあ、何をしまいがお前たちにかせられた定めは変えられんがな。どうした、震えているのか?怖がる必要はない、先ほどの奴のように今我らが主の元へと送ってやる」

彼は震えながら答えた。

「…なんでだよ、俺たちがいったい何をしたっていうんだ?この森の奥深くで静かに誰に迷惑をかけるでもなく暮らしていただけじゃないか。それを、それをお前が村の奴らを…」

奴は少し考えてから答えた。

「お前たちに罪はない」

そしてさらに言葉を続けた。

「確かにお前たちに非はない、だがお前たちが生きること自体害悪なのだ」

その言葉に彼は目を見開いて叫んだ。

「何様のつもりだ、てめーは!」

奴は相変わらずの落ち着いたそぶりで言った。

「私は神の代行者だ」

その言葉に彼の怒りは頂点に達した。

「神が、神様が俺達を殺せと言ったのか?だから俺たちを殺すって言うのか?」

「ああ、そうだ」

「ふざけるな!誰が認めるか、そんな神さまなんて。認めねえ、絶対認めね…え、がはっ」

「残念だが、君の意見を述べられる時間はこれまでだ」

光が彼の体を貫き、口からは血が溢れた(あふれた)。

彼は瀕死の体で奴に尋ねた。

「なんでだよ…、俺達の存在が罪だと言うなら、なんで、なんで神様は俺たちをこんな風に作ったんだよ…、教えてくれよ、あんた神様の使いなんだろう」

「主の真意は私にもわからない、私はただその命(めい)に従うのみだ」

「俺は、俺は…」

彼はまだ何かを言いたそうだった。

「今、主の下に送ってやる。塵(ちり)は塵へ、灰は灰へ」

激しい閃光に包まれ彼の体は消滅した。

「これで我が消した村はやっつか」

今で姿を隠していた月が死者達の魂を導くかのように雲の合間から姿を現した。

「今度はあの方角へ行ってみるか」

奴はそうつぶやくとまた主に仇(あだ)なすものを探しに歩き始めた。



なんて話を家に飛んできた羽虫を潰した時に考えたんですけどいかがだったでしょうか?

前の話があれで今回のオチがそれはないだろうという気もしますが思いついたのは今回の話のほうが先です。

ではまた次回作にて。

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Novel Editor