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ショートストーリー 作者:暗中茂作

第25回   エターナルアース
「起きてー、朝だよー」

「すーすー」

「起きてー、朝だよ、ロック君」

「すーすー」

「おい、起きろよロッド」

「う、うーん」

「起きろってば。せーの!」

そういうとカインは僕の寝ていたベットに敷いてあった布団ごと僕をを引きずりおろした。

「うわー、あいててて」

僕は床に落ちたショックで目が覚めた。

「お前はほんと寝起きが悪いななー」

「だからってこんな起こし方することないじゃないかよー」

「うるせー、俺だって毎回毎回お前のこと起しに来るの面倒なんだぜ。おまえがちゃんと一人で起きられればこんなこといちいちしなくてもすむんだぞ。ちったあ感謝しろよ」

「はいはい、感謝してますってば」

「じゃあ、とっとと着替えて冒険行くぞ。今回は西の洞窟に発生したスライム退治な」

「あーい」

俺はそういうとパジャマから冒険用の装備に着替え始めた。

俺を起こしてくれたやつの名前はカイン。職業は戦士だ。コンビを組み始めてからもう2,3年になる。ちなみに俺の職業は魔法使いだ。

俺が今いる世界は剣と魔法の世界、エターナルアースだ。そしてもっと詳しく言うと、エターナルアースの中心から少し外れた農村パナケイアの宿屋だ。

エターナルアースはその中心から円状にえいえいと台地が凄い速さで広がっていっている。俺はその果てを見たことはない、でも今も広がってるのは確かだ。

「着替え終わったよ」

「よし、行くとしますか。んじゃお前の魔法で一気に行っちまおうぜ」

「えー、移動用の呪文って結構魔力を消費するんだぜ。お前も知ってるだろ?」

「じゃあ、歩いていくって言うのかよ。あそこまでどんくらいかかると思ってるんだよ。体力のないお前が結局疲れて、行き帰りの荷物を毎回俺が持つことになるってのはどういうことよ」

「あーい、分かったよ。でもピンチのときに魔力が無くなっても文句言うなよ」

「平気、平気。そんときゃ俺がこの剣でなんとかすっから」

「はいはい、頼りにしてますよ。んじゃ呪文唱えるから側によって」

「おっけー」

「んじゃいくよ、大気に満ちし風の精霊よ、その力を持ちて我と彼とを彼の地へ導きたまえ、ムーブ!」

俺がそう言うと、俺とカインの体がまばゆい光に包まれるとふっと宿屋の部屋から消えた。そして気がつくと西の洞窟に入り口にいた。

「おっしゃー、着いたー。行くぞロック」

「あいあいさー」

そういうと俺たちは中へ入っていった。中は少し薄暗くひんやりとした鍾乳洞になっていた。

「そろそろスライムどもがでてくるころだ。慎重に行こうぜカイン」

俺はそうカインに呼びかけた

「平気、平気。がんがん行きましょう」

そんなことを言っていると細長い鍾乳石の影から3匹のスライムがのそのそと姿を現した。スライムは種別ごとに色がついた半透明の水饅頭のような姿している。ちなみに現れたのは一番弱い水色のスライムだった。

「でたな水饅頭!覚悟しろ」

そう言うとカインは剣を抜いた。

「スライムだってば」

ツッコミを入れながら僕も攻撃用の呪文を唱えるため杖を構える。

のそのそと這い出してきたスライムの一匹が勢い良くは弾むとカインの顔めがけて体当たりしてきた。雑魚だと侮って(あなどって)いたカインはもろに顔面に攻撃を喰らってしまった。

「こいつ、人が下手に出ていれば!」

「いつ下手に出たんだよ。油断してただけだろ」

軟らかそうな見た目とは裏腹にスライムの体当たりは結構痛い。硬いゴムの固まりで殴られたような感覚がする。

「ん、カイン、お前鼻のとこ」

「なんだよ?俺は今このスライムをどう料理してやろうか思案中なんだよ」

「血が出てるぞ」

「へ?」

間抜けな声をだして、指で鼻の穴の下をこすって見るカイン。そして顔の近くで見た指にはしっかりカインの鼻血が付いていた。

「こ、こいつ、よくも俺様の美しい顔に鼻血なんかを…。ゆるさん、絶対に許さん。全員ぶった切ってやる。喰らえ!」

そういうとカインはスライムに向かってものすごい速さで剣を振り下ろした。攻撃は見事に命中し、水饅頭のあんこ(中心の核)ごと真っ二つに切り裂いた。物理攻撃で再生能力の強いスライムを倒すには、中心の核にダメージを与えなければいけない。だがそれがなかなか歴戦の戦士でも難しいのだ。例えば剣の攻撃を受ける時はその剣の軌道を読み切って、その軌道からう上手い事核を移動させ核の周りのぶよぶよだけを切らし、またすぐその切られた部分と合体してしまう。だからカインの剣の腕前はかなりのものと言って良いだろう。

「カイン君てば、やるー」

「うるさい。見てるだけじゃないでお前も戦え!」

「全員ぶった切ってくれるんじゃなかったの?」

「人の揚げ足取る暇があるなら攻撃呪文の1つも唱えろ!」

「あーい、んじゃいっきまーす。激しき力持ちし火の精霊よ、わが下に集いて火玉となれ、ファイヤーボール!」

俺の杖の先に高温の火の玉ができると、そいつを俺はスライムにめがけて放った。火の玉はこれまた見事にスライムに命中すると、周りのぶよぶよを焼き尽くし核も丸焦げにした。

「よっしゃロック、よーし、残りは一匹だ。クックック、さあどう料理してやろう?」

「カイン、カイン。それじゃこっちが悪者みたいだよ」

こっちの会話の内容を理解したのか、形勢が悪くなってきたと思ったのかスライムは少し怯えてるようだった。そして、俺たちに背?をむけるとズザザザーと入り口と反対方向に向かって逃げ出した。

「なに?!」

カインが驚いた声を上げる。

「あらら、逃げられちゃったよ」

「のんきなこと言ってる場合か。追うぞ」

「あーい」

そういうと俺達はスライムは追いかけ始めた。スライムは見かけから想像も付かない速度でぐんぐん逃げていく。俺たちもそれ追いかけて必死で走る。

「あー、もう。俺疲れたよカイン。一匹ぐらい見逃してやろうぜ」

「いいや、絶対許さん。俺の美しい顔の傷をつけた罪は万死に値する。追いつき次第ぶった切る!」

「へーい」

俺たちが喋りながら追いかけてくと、スライムは細い道から広い円状部屋の様になった所の中心部で動きを止めた。

「ふっふっふ、いい子だ。やっと覚悟を決めたか。今すぐぶった切ってやるから待ってろ。」

「カイン、ほんとに悪役みたいだよ。」

「構わん。今宵の虎鉄は血に飢えておるのだ」

何言ってんだか。俺がそう思っているとボタッと上から何かが降ってきた。何だろうと思い落ちたきたものを見るとそいつは黄色のスライムだった。

慌てて俺が上を見上げるとそこには、水色、黄色、青、赤、黒、白、の無数のスライムが蠢いて(うごめいて)いた。そしてそのうちの何匹か俺たちめがけて落ちてきはじめた。

「やばい、どうする?!カイン!」

俺がそう言ってカインのほうを向くと、カインはもう俺から50メートルぐらい離れたところを走っていた。

「あ、ん、の、野郎!」

俺の中かに怒りの炎がメラメラと渦巻き始めた。

「ちきしょう、こうなったら一人でもやってやる!大気に満ちし風の精霊よ、激しき力持ちし火の精霊よ、汝らが力ここに合わせ、我紅蓮の風を起こさん、ファイヤーストーム!」

呪文を唱えると同時に俺の体を中心に炎の竜巻が起こった。それは天井まで達し、辺りのスライムをすべて焼き尽くした。 炎の渦はスライムを焼き尽くした後も回り続け消え去るのに時間がかかった。炎をが消え去って少ししてから、カインが戻ってきた。

「大丈夫だったか、ロック?いや、お前ならきっと一人でも平気だと思ってたよ。」

「……」

「んじゃ、スライムも退治したことだしそろそろ帰るとするか」

「…ぶんしかないから」

「へ?」

聞き返すカインに俺は答えた。

「一人分しかないら、移動呪文用の魔力。今の攻撃呪文唱えたせいで」

「へ?それって…」

「あれだけ逃げる体力あるなら、歩いて帰ってこれるだろう。じゃ、いつもの村の酒場で先に待ってるから」

「あの、ロック君?」

「大気に満ちし風の精霊よ、その力を持ちて我を彼の地へ導きたまえ、ムーブ!」

そういうと俺の体はまばゆい光に包まれて一瞬で消えた。後には呆然と立ち尽くすカインが残された。

村に付くと俺は酒場で飲み食いをして時間をつぶしていた。カインは夕方ごろになってやっとたどり着いた。

「ひどいよ、ロックー。仲間を置いて一人で行っちまうなんて」

「さきに俺のこと見捨てて逃げたのはお前だろうが」

「それはだなー、君ならきっとやれるという俺の仲間に対する厚い信頼がだなあ」

「あーもう、いいよ。許してやるから。長いこと歩いてきて腹減ってんだろう。お前もなんか食えよ」

「ありがとー、ロック君てばやさしー。俺ってば感謝感激雨あられ」

そういうとカインは店員に料理を注文し、自分の料理ができるまで俺が注文しといた料理を食べ始めた。

「いろいろ、あったけど今回の冒険も振り返ってみると結構楽しかったな」

俺はそうカインに語りかけ始めた。

「なに言ってんだよ、冒険なんて昔っから楽しいものだって相場が決まってるだろう」

「そうだな…」

「なんだよ、元気ないな。なんか悩みでもあるのか?俺でよかったら話しきくぜ」

「いや、たいしたことじゃないんだ」

「なんだよ、気になるな。自分の中に溜め込んでないで口に出していってみろよ」

「冒険は楽しいんだ、いつだってお前が言う様に。でも…」

「でも?」

「俺がしてることに意味があるんだろうかって、最近いつも思うんだ。」

「…お前、そんなこと考えてたのか」

「…うん」

「馬鹿野郎!そんなのあるに決まってるだろう」

「カイン…」

「俺たちが冒険を通して成長してるのは剣の腕前や魔力だけじゃない。心だって成長してるんだ。俺たちが冒険するのは金や名声のためじゃないだろう?村を襲ったモンスターを撃退したり、病人のための薬を求めて薬の材料になる薬草を探しに行ったり。お前はそういうことが本当に意味のないことだと思ってるのか?」

「…ありがとう」

俺は胸が熱くなってくるのを感じた。

「大体冒険を楽しむってこと自体が意味のあることなんだよ。長年冒険者をしてきてお前はそんなことも分かってなかったのかよ?」

「ごめん、君の言うとおりだよ、カイン」

「お前、きっと疲れてんだよ。先宿屋行って寝てていいぜ」

「うん、そうするよ」

「ああ、眠って疲れが取れればまた気分が変わるとおもうぜ」

「うん。ああ、カイン、最後にひとついいか?」

「なんだよ、遠慮なく言えよ」

「今日の飲み食い代全部お前持ちな」

「なにー?!」

「一人で逃げた罰だよ」

「なんだよそれ、悩み相談に応じてやっただろう?!」

「それとこれとは話が別。んじゃ、おやすみ」

「ロックの鬼ー!」

カインの叫び声が聞こえたが俺は気にせず宿屋に向かった。





「エターナルアースをご利用いただきありがとうございました。また次回も楽しんでご利用いただくことをお待ちしています」

いつもの終了のメッセージを聞き終わると俺は映像受信用のアイマスクと耳に付けていたイヤホンを外した。

「隆、ゲーム終わったならご飯にしましょうー」

「はーい」

俺は母さんに呼ばれると返事をして食卓に向かった。

「隆は休みの日といえばあのゲームばっかなんだから。あのゲームってそんなに面白いの?」

食卓に行くと母さんが話しかけてきた。

「うん、すごく面白いよ。MMORPGっていろいろな人が参加して、いろんなキャラクターになりきって遊ぶんだ。それ以外にもNPC、ノンプレイヤーキャラクターって言って人間じゃなくてコンピューターが動かしてるキャラクターがいてそいつらの出来がすごくいいんだ。かなり高度なAIを使ってるんだと思うよ。それで、いつも冒険してる奴でカインていう奴がいるんだけど、ちなみにそいつは」

「あーもう、いいわよ。隆がそのゲームがすごく面白いと思ってるってのはよく分かったから。詳しい話をされてもお母さんちんぷんかんぷんだわ。それより冷めないうちに早くご飯にしましょう」

「はーい」

そういうと僕は食事を始めた。今度はどんな冒険をしよう、そんなことを考えながら。

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Novel Editor