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ショートストーリー 作者:暗中茂作

第16回   打ち合わせ
某日某所の喫茶店にて

「それじゃ、今度の連載どうするか決めましょうか、先生」

「それについて少し考えてみてきたんだけどね、担当さん」

「どんなこと考えてきたんですか?」

「打ち合わせのお話を書いてみようかなと思ったんだ」

「へ?打ち合わせですか。私達が話してるのなんて書いてもそんなに面白くないんじゃないですかね」

「いや、普段の打ち合わせの内容をだらだらと書くのではないんだ」

「と、いいますと?」

「あるアイデアが生まれたとしよう。そして、そのアイデア自体はなかなか良いものだったとしよう。だ
がそのアイデア単品ではお話にはならない。そのアイデアを活かす為には、物語の背景や登場人物といった物が必要だ。だがそう言うものを書くのは大変だ。そんな時には、今言った打ち合わせの話だ」

「どうするんですか?」

「そのアイデアについて、私と担当さんで対話形式で話し合ってまとめていく様子をレポートしたようなお話にするんだ。そうすればそのアイデア単品でも何とか話になるだろう」

「へー、なかなか面白そうじゃないですか」

「でも私はそこでふと考えたんだ」

「なにを考えたんですか?」

「そうやって打ち合わせのレポートというような形でアイデアを世間に発表すると言うことは、そのアイデアをちゃんとした物語にすることを放棄したことにはならないだろうか。自分の実力の無さを認めることになるのではないだろうかと」

「なるほど」

「そこでまた少し考えたんだが、まず一つのアイデアについての打ち合わせをレポートしたような話を書いて、その次にそのアイデアを使った話を書くんだ。でもその話は打ち合わせの時と違う展開にしておくんだ。ちょっとした変化球だ。それなら打ち合わせの話を使うことにも必然性が出てくるだろう」

「ほうほう」

「なかなかいい案だろう。気に入ってくれたかい?」

「ええ。で肝心の連載のためのアイデアはどんな物を考えているんですか?」

「それなんだがね、担当さん」

「はい、先生」

「まだなーんも思いつかんのだよ」

「先生」

「ん?」

「この話はなかったことに」

「待って、待って、次の打ち合わせまでには何か考えてくるから。ね、お願い担当さん。ここのメニューで好きなものなんでもおごるから」

「そうですか、分りました。では次回の打ち合わせまで待つとしましょう」

「ありがとー、担当さん。」

「じゃこのゴージャスパフェっての三つとレモンティー」

「え」

「なんでも好きなのおごってくれるって約束でしょ」

「あのたしかにおごるとは言ったけど、いくつもとは…。それにこのゴージャスパフェっての結構なお値段で、今日は持ち合わせが…」

「じゃあ、やっぱり連載の話はなかったということで」

「おごります、もうなんでも好きなもの食べてください」

「そうですか、じゃ遠慮せず。あ、このサンドイッチもいいな。こっちのケーキもおいしそうだなあ。先生はコーヒーだけでいいんですか?他になにも注文しなくて」

「うう…。私のことは気にせずに食べてください。ウエイトレスさーん、すみませんコーヒーおかわりください」

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Novel Editor