私は人には先生と呼ばれている。世間では結構な売れっ子で、何本か連載をかかえている。 そんな私だが、最近、先生と呼ばれる立場になってからというものあまり本を読まなくなった 何故かと言うと、どうしても作者の視点から話を見てしまい素直に話を楽しむことが出来なくなってしまったからだ。昔なら上手い描写だなーと感心したところを、今ではそれを書いた作者の才能に嫉妬してしまったりする。そんな私に友人がある1冊の本を面白いから読んでみなと言ってすすめてくれた。はじめは半信半疑だった私だが、実際に読んでみると、なるほど確かに面白かった。ひさびさに一読者として素直に楽しむことが出来た。私はこの感動を誰かに伝えたいと思った。
ピンポーン
チャイムの音がする。どうやら担当さんが来たらしい。早速、この本を担当さんに薦めてみようと思う。
「担当さん、面白い本があるんだが読んでみないか?」
「へー、どんな本ですか」
「これなんだが」
「・・・、先生」
「ん、なんだい?」
「先生に一つ言いたいことがあるのですが」
「構わんよ、言ってごらん」
「では言いますよ」
「どうぞ」
「・・・、先生、いい年こいてなに少女漫画なんか読んでるんですかー!そんな暇あったら早く原稿あげてください!」
「だっていい話なんだよこれー。主人公の女の子の悲恋が泣けるんだよー」
「他の人が書いた話なんかに感動なんかしてないで、先生も小説家のはしくれなら自分でもっとすぐれた話を作ってください!」
「いやいや、こうやって他の人の作品を読むことも芸の肥やしになるんだよ」
「・・・分りました、つまらないことに時間かけてた事は許しましょう。その代わり今から原稿上げるまでずっと先生の側離れませんからね」
「えええー!そんなー」
「ほらほら、泣きごと言ってないでとっとと原稿あげる!」
「うう、、」
私は人には先生と呼ばれている。原稿をおとしたことはまだない。
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