「この心境に至るまで色々紆余曲折があったけど、やっと最後の願いを決めたよ」
「そうですか。大金を得て遊びつくしたり旨い物を食いまくったりと色々ありましたね」
「うん、それで最後の願いなんだけどね悪魔君」
「はい、なんでしょうご主人様」
「俺の中から余計なものを取り払って純粋な俺だけの気持ちにして欲しいんだ」
「ほう、そんな願いでよろしいんで?叶えても構いませんが、その願い事を叶えて純粋なあなたの思いに至った時に願い事をさらに叶えるってことは出来ませんよ」
「ああ、それで構わない。君にいくつかの願い事を叶えてもらってるうちに思ったんだ。俺の本当の願いはなんだろう。俺はどうしたら幸福になれるのだろうと。そしてこの願い事に至ったんだ」
「なるほど、よく分かりました。では最後にその願い事を叶えてあげましょう。そして一つサービスしてあげましょう」
「ふふ、サービスってなんだい?まさか魂を差し出さなくても言いなんていうんじゃないだろうね?」
「話が早いですね。そのまさかですよ、貴方は魂を差し出さなくてもいいんですよ」
「そんな、いいのか?最初の契約の時願いを叶える代償としてその魂を差し出すそういう話だったろう?」
「ええ、その通りですが、貴方の願いがまれに見る希少な願い事なので私も考えを変えたのです」
「そうか」
「ええ、ただし願い事を叶えたら最後、貴方はそれ以上願いを叶えることも昔の自分に戻ることは出来ないんですよ。それでも構わないでしたら願いを叶えさせていただきます」
「了解だ。今すぐ願いを叶えてくれ」
「それでは」
※
「田中君いる?」
その日、彼女鈴木市子は自分の彼氏の部屋を訪れた。
最近なんだかお金の使い方が荒かったり、色々心配な点があるので彼の家を訪れたのだ。
何度か呼びかけても彼が出てこないので彼女はドアノブに手をかけた。
鍵はかかっておらず彼女はそのままドアを開けた。
するとなんだか悪臭がした。
「なに、これ、くっさーい」
それはなんだかトイレの大きい方の臭いの様だった。
鼻をつまみながら彼女は部屋の中に入っていく。
するとそこに全裸で寝ている彼の姿があった。
「田中君、ちょっとなんて格好してるのよ。玄関に鍵もかかってなかったし」
彼女に揺り起こされて田中は目を覚ました。
そして彼女の顔を見て少しボーっとした後、いきなり彼女の唇を奪った。
「ん、ちょっとたな……ん」
それは濃厚なねっとりとしたディープキスだった。
彼はキスをしたまま彼女の腕をつかむとベッドに押し倒した。
「ん、んんん」
彼女は抵抗しようとしたが口も手も押さえられている状態なのでどうしようもない。
そこではたと彼女は自分の腕に触れる感触に気づいた。
それはなんだかねっとりしていた柔らかいもののようだった。
目をやるとそれはなんと糞、田中の人糞だった。
彼女は絶句した、もとより口をふさがれていて言葉が出ないのは最初からだったが。
彼女は上に乗りかかっている彼に膝蹴りを放って距離をとった。
彼の口からはうっすら血がにじんだ。
舌を入れていたせいで歯で少し切ったらしい。
「なに考えてるのよ、田中君。もうどれもこれも非常識すぎてどれから注意したらいいかわからないわ」
彼女はきっとした態度で彼を批判した。
すると彼は性懲りもなく彼女の唇を求めてきた。
彼女はこぶしを握り彼に殴りかかろうとした。
しかしそれは相手も同じだった、いや、というよりそれに反応して殴りかかってきたという感じだった。
彼女は彼の体重のかかった重いパンチをもらってベッドにまた倒れた。
激しい痛みに涙がこみ上げてきたが言葉を発する前にまた唇は唇によってふさがれ、そしてしゃべろうとしたその瞬間彼女は舌をかまれ出血しさらに言葉を発することが困難になった。
そして彼女への暴力は続いた。
そうその暴力は彼女の家族が消息の途絶えた彼女を心配し、彼の部屋でレイプされ包丁で何度もいろんな場所を刺され一部を喰われた腐乱死体となって発見されるまで続いた。
※
『我思うゆえに我あり』という言葉があるがそれには少し補足が必要だな。
正しくは『我、我が思い知るゆえに我あり』と言ったところかな。
人間の純粋な思いなんて無意識化の欲望に過ぎない。
そこに理性といった概念などを取り込むことによって自分自身を見つめ自我が生じた。
人間は概念を含めた自分の思いを意識できてこそ人間という存在足りうる。
彼は自分の本心を知ろうとして自分自身を見つめることが出来なくなってしまったのだ。
くっくっく、こんな滑稽な話があるだろうか?
いや、それにしてもこれはいい手かもしれない。
今度からは最初にこの願い事を薦めてみよう。
純粋な自分自身になってみたくはないですかと。
|
|