「そんな、怪我をしてるあいつを見捨てるって言うのか?」
「見捨てるんじゃない。利用するんだ」
「利用ってなんだよ」
「喰っちまうって事だよ」
「な、何言ってんだよ」
「家の中で母さんの世話ばかりしてきたお前は知らないかもしれないが外で働いてきた奴なら誰でも知ってる当たり前の事だ」
「そんな……。だってあいつは仲間って言うか、なんていうか」
「兄弟か?」
「そうだよ、あいつは同じ母さんから生まれた兄弟だ。その肉を食うなんて、考えただけでぞっとする」
「兄弟、そう同じ母から生まれた兄弟なのになんでこんなに役割分担が違うんだろうな?」
「そりゃ俺だって外に出て働きたいと思うよ。でも誰かが母さんの世話をしなくちゃ」
「お前の仕事にもその仕事なりの苦労があるんだろうな。だけどそんなの外で食料を集めてる俺たちの苦労に比べたらクズみたいなもんさ」
「そんな言い方しなくたっていいじゃないか」
「夏の炎天下の下、自分の命もかえりみないでジャングルのように茂った植物をかきわけその実を集めたり、集団で自分の何倍もの大きさの獲物を狩でしとめたり、そんな大変さはお前はこれっぽちもわからないのさ。そしてそういった狩の時などに傷つき役立たずになった仲間は肉として処分されるんだ」
「仲間を、兄弟を肉なんていうなよ!どんなになってもあいつらはあいつらだ」
「そうだな。たとえばお前の体の一部になってたりしてもな」
「……、どういう意味だよ」
「言葉どおりの意味さ」
「おまえは何も知らない俺に仲間の肉を食わせたって言うのか!」
「何も知らないお前が間抜けなだけなのさ」
「……ちきしょう。母さんには絶対言うなよ。最近あの人具合が悪いんだ」
「さあて、あの人もどこまで知らなくてどこまで知っているのかね?まあ、あの人もずいぶん長生きしたことだしもうそろそろ俺たち家族も潮時かな」
「そうなのかもな。でも俺は最後の最後まで母さんの傍にいて世話をしていてやりたいんだ。最近、それが自分の存在意義だと思うんだ」
「そうかい。ところでお前が招きいれた客人はどうしてる?あいつを喰うのはまだか?」
「まってくれ、少しの間だけでいい。客人の歌を母さんに聞かせてやりたいんだ」
「わかった喰うのはそれからにしよう。それにしても奇妙な話だな」
「ああ、喰われるのを覚悟でキリギリスがアリのところに最後の晩餐を求めてやってくるなんて」
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