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ショートストーリー2 作者:暗中茂作

第36回   掌編二つ
『告白の後』

「いやあ、今日は本当にうれしいよ。それもこれもお前のおかげだ。じゃんじゃん飲んでくれ」

「俺なんて大した事はしてないよ。お前が正直に告白したのがよかったんだよ」

「そうかなあ、でもやっぱりお前の助力がなかったらこんなに上手くは行かなかっただろうと思うよ」

「そういわれると照れるな。でもお前が幸せそうでよかった。それが何よりの報酬だよ」

「わりいな金欠なもんでたいしたお礼もできなくて」

「あはは、嫌味で言ったわけじゃないさ」

「それにしても答えをあの人が言う時は緊張したなあ」

「ああいう場面じゃ誰だって緊張するさ」

「でもあの人は理由ばっかり述べてなかなか答えを言ってくれなくてあせったよ」

「俺の経験で言わせてもらえば、一部の例外を除いてはまずは理由から言うのが一般的だな」

「お前が脇にいてくれて助かったよ。あの人の反応しだいでは俺マジ死んじゃうと思ったからね」

「ははは、極端だな。まあ、今言った一部の例外の場合なんかもあるからな」

「一部の例外ってのはやっぱり頭からだめって感じで言われるのか?言われた方はショックだろうな」

「ああ、そうだよ。でも長いこと理由を説明してから最後に言うって形じゃお前みたいに答えを待つ間、きがきじゃないからな」

「そうか。それにしてもなんだな。あれだな。やっぱり持つべきもんは友達だな」

「そうかな」

「そうだよ、特に弁護士の友人なんてのは大助かりだ。お前がいなかったら執行猶予はつかなかったと思うよ」

「お前が事故を起こした時にそのまま逃げないで正直に警察にすぐに連絡したのがよかったのさ。なかなかそういう場面でそういうことできるもんじゃないぜ」

「ああ。今振り返るとそれがよかったのかもな。それにしても知らなかったな。死刑の時いがいは理由から先に言うなんて」

「まあ、一般人じゃあんま知らないかもな。それより今日はお前の判決を祝ってぱーっと行こうぜ」

「ああ」



『公正な判決?』

「……以上の理由をもって被告人をその刑に処す」

「ちきしょう!俺は認めないぞこんな裁判なんか。こんなもん私刑と変わらない」

「被告人、落ち着いてください」

「これが落ち着いてられるか。死ぬんだぞ俺は、こんな茶番劇のせいで」

「被告人、茶番劇とはなんですか。法廷侮辱罪に問いますよ」

「ああ、問いたきゃあときゃあいいだろう。どうせ死ぬんだ。いまさらどんな罪に問われようと関係ないからな」

「被告人、荒れる気持ちもわかりますがなにが茶番劇だと思うのですか?」

「……」

「この裁判には裁判官である私、貴方の罪を追及した検察官、貴方を擁護した弁護士、そしてこの事件について知りたくて来た傍聴人。大勢の人が真面目に関わったれっきとした裁判なんですよ」

「……茶番は茶番だ」

「いいえ、これはちゃんとした公明正大な裁判です」

「ふん、あんたら数人が決めたいい加減な判定じゃないか」

「裁判に関係した人の数はこの際問題ではありません。問題はいかにして公明正大な判定をするかです。その点では私には自負があります」

「……」

「確かに貴方にとってはショックな判決でしょう。ですがそれは貴方が犯した罪の報いなのです。貴方はそれを厳粛に受け止めなければなりません」

「……」

「このような刑事裁判による罰則はつまるところ治安の維持に必要なものなのです。貴方の死もその意味では無駄にはなりません。貴方に下された刑は他の犯罪者予備軍に対しての戒めの効果もあるのです」

「他人の役に立てて幸せな死だとでも思えというのか」

「被告人、貴方の死はこの場にいる全員の悲しみです。そうこの場にいる全国民の悲しみです」

「ふざけるな、国民の数がこの場にいるたった数人しかいないこの国でなにが裁判だ。みとめねえ、みとめねえぞお」

「それでは被告人が少し興奮気味ですがこれにて閉廷とします。なお刑の執行は近日中に行います」

「みとめねえぞおお」


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Novel Editor by BS CGI Rental
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