ああ、もう死んじまいたい。
俺はもうかなりの年だ。
数えるのも面倒なくらいだ。
体は弱る一方でまったくいいことも何もない。
毎日ゴミ箱をあさってその日の食料を手に入れるだけで精一杯だ。
最近、自殺も考えたがいい方法が浮かばない。
舌をかんで死ぬのが一番手っ取り早いだろうが痛そうなので却下だ。
世の中には完全自殺マニュアルなんてものもあるそうだがおれには関係無用だ。
なぜなら文字が読めないのだ。
目が悪いからとかではない。(年のせいでだいぶ悪いが)
文字の意味が理解できないのだ。
俺が文字の一つも理解できればこんな状況にもなっていなかったかもしれんが、『たら』と『れば』は言ったらきりがない。
それに俺はそのことを恥じてはいない。
今までそれでもこの年まで生きてこれたし、人に何を言われたかは分かる。
今までの仕事は主に肉体労働だったせいもあるが。
働けてる頃は楽しかった。
なにがと言われると困るがとにかく楽しかったのだ。
それは体を動かすこと自体の喜びだったのかもしれないし、働いて空腹になってからの食事のせいだったのかもしれない。
今となってはわからない、昔の思い出だ。
楽しかったころの事を思い出したが、やっぱりだめだ、憂鬱だ。
死んじまいたい。
昔の仲間が言っていた。
この世界には、今の俺みたいに役立たずになった年寄りをどこかに連れてくやつらがいるらしい。
役立たずどもは連れて行かれた先で安らかな死を与えられるらしい。
本当かどうかはわからない。
何しろそこから帰ってきた奴がいないからだ。
だが俺がこんな生活を送っててもここは田舎だからかそんな奴らにお目にかかったことはない。
もう少し都会に行けばそんな奴らにも出くわすのだろうか?
とにかく俺は死にたい。
出来たら幸福に。
そんなことを考えていると急に子供が駆けてきた
「まってー、行かないでー」
どうやらボールを追いかけてきたらしい。
そのボールは俺の目の前に転がってきてちょうど止まった。
俺はボールを子供の所に運んでやった。
「ありがとー!」
子供はすごくうれしそうに返事をした。
そして大人の女性の所に急いで戻っていった。
「ママ、ボール遊びって楽しいね」
「急に駆け出したらだめだって言ってるでしょ。本当にもう。」
女性は子供にママと呼ばれていた。
ボールを追いかけていた子供は本当に幸せそうだった。
そうしてそれを見ていた俺も幸福について思い出しかけていた。
そう、それは他人に喜ばれることが自分のこ、
その瞬間、急にのどが苦しくなって私は振り返った。
そして、理解した。
自分にもやっと死神が訪れたのだと。
それは想像してたのとちょっと違ったが俺は納得していた。
最後にあの子に会えてよかったと。
※
その時の公園は少し騒がしかった。
保健所の職員が、ひもでつくられた輪が棒の先についた道具で老犬を引っ張っていたからだ。
老犬はたいした抵抗も見せず公園の外にとめてある保健所の車に向かって歩いていたが、見慣れぬ光景に周りがざわめいていたのだ。
その中には今しがた老犬からボールを受け取った相手もいた。
「ねえ、ママ。あの犬どうなっちゃうの?どこにつれてかれちゃうの?」
「目を合わせちゃだめよ。こっちに早く来なさい」
「ママ、待ってよ」
「あの犬はね。野良犬だから保健所って所に連れてかれるの」
「保健所ってところでどうなるの?殺されるの?死んじゃうの?」
「いいから早く来なさい」
女性が足早にその場を立ち去ろうとした、その時。
老犬が「わおおおん」と一声だけ女性達の方向に向かって鳴いた。
女性がそちらを見ると老犬が尻尾をうれしそうに振りながらまっすぐこちらを見ていた。
それは本当に幸福そうだった。
老犬はこれから自分に起こるであろう事をおおむね把握していた。
だが彼女には、これから老犬に起こる事を創造出来てないように見れた。
彼女は迷った。
そして、
※
老犬は眠っていた。
だが死んではいなかった。
久しぶりのちゃんとした食事と安心できる寝床で今までの疲れがどっとでたのだ。
「よかったね。ママに飼ってもらえることになって」
子供が話しかけたけど老犬は眠ったままだ。
「僕はね、ライナスって言うんだ」
子供は話を続ける
「ママは最初は違う名前にしようと思ってたんだけど、ママが僕がいつもタオルを離さないのを見てピーナッツって漫画のキャラから名前をつけたんだって」
「……」
老犬は眠ってる
「ママはね、最初ピーナッツって漫画の主人公の名前を僕につけようとしたんだって」
「……」
「そいつの名前はスヌーピーって言うんだって。僕達ビーグルの中ではすごく有名な奴なんだってさ」
そうやって同じビーグル犬、老犬に子供が話しかけたが陋見は幸せそうに眠ったままでやっぱり返事はないのであった。
|
|