――― 悲しい思い出の話なんだけどさ。ちょっと聞いてくれないかしら。
私、昔片思いをしてたの、男の子に。
その人は最初は一人身だったんだけど、ある日彼女が出来たの。
すごくかわいくて清純な感じの女の子だった。
二人はいつもたわいないやり取りをしていたわ。
私はいつもそれを木の陰とかから見ていた。
最初は激しく女の子に嫉妬したわ。
でもいつの間にか私はそのたわいないやり取りに幸せってモノを感じるようになっていたの。
おかしな話でしょ?
きっとあの頃の気持ちはもう取り戻せない。
あの男の子の事が本当に好きだったのよ。
だから彼が幸せなら私も幸せ。
そう、彼の幸せだけが私の幸せ。
でもまた私にどす黒い気持ちがとりついた。
それは私ならきっともっと彼を幸せに出来るのにって気持ちだった。
彼と彼女はいつも同じ場所で同じように同じことを繰り返していた。
それを見ている私は、いつまでたっても結ばれないラブコメ漫画を読んでいるようだったわ。
だから、私はね、ある日思い切って彼と彼女に会って教えたの。
そのなんていうか、エッ、エッ、えっと、A to Zを。
健康な男女がそんなことも知らないなんてかえって不健全だと思うでしょ?
それで彼と彼女はその方法を試してみたらしいの。
本当は彼の相手は私であってほしかった。
でも私の見た目じゃそれが無理な事はよく分かってた。
だからそれについてはあきらめたわ。
私は彼がその方法でもっと幸せになることを望んだの。
でも私のそんな切ない願いもはかなく砕け散ったわ。
彼と彼女のした事、それを私が教えた事。
それがなんていうか、親にばれちゃったのよ。
それで彼と彼女は親にかんどうされちゃって、それでいつも会っていた彼らの庭の木で会うことも出来なくなったの。
とうぜん私は今までのように彼らを見守ることも出来なくなったし、きびしく怒られたわ。
その後、彼と彼女がどんな人生を歩んだかは私には分からない。
でも彼と彼女の子供達は、その子によるけどそれそぞれ幸せにやってるみたい。
え?彼と彼女の名前が知りたいって?
私のこの話、割と有名だから貴方はてっきり知ってるかと思ったわ。
それに彼と彼女の名前よりまず目の前の私に名前を聞くべきじゃない?
名前すら気にしない気楽な関係なんてのも私の好みだけどね。
いいわ、おしえてあげる。
彼の名前はアダム、彼女の名前はイブ。
そうね、私はリリスとでも名乗っておくわ。
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