「どうして。どうして……。どうしてなんですか」
「まあ、落ち着きたまえよ」
「嫌です。到底納得できません」
「困ったね」
「教えてください。理由を……。せめて、理由を」
「それは簡単明瞭なことだ。君が子供だからだよ」
「そんな…」
「子供は犯罪を起こしても原則無罪。それが私達の国の法律だ」
「そんなの認めません!私は私を罰してほしいんです」
「しかし法律がそうなってる以上はなにを言っても無駄なことだ。法律を変えてほしければ国会議員にでも頼めばいいのだろうが子供の君には無理な話だね」
「八方ふさがりってことですか……。誰が、何が、僕を子供だって決めたんですか?」
「それは国や法律がさ。犯罪を犯したのに無罪。願ったりかなったりじゃないか。いったい何が不満なんだね?」
「僕は僕を罰してほしかったんです……。それが余命いくばくもない僕の最後の望みなんです」
「君の病状については私も把握してるよ。だがそれならなおさらよかったじゃないか。残り短い人生を明るく楽しく生きればいいじゃないか」
「病気になったことは仕方ないことだと思ってます」
「……」
「でもだからこそ私は私を罰してほしかったんです。一人前の大人として」
「……」
「私のこれまでずっと子供扱いをされてきました。ですが私の精神は大人です。だからどんな方法を用いてもいい、私は大人扱いをされたかったんです」
「だから犯罪に身を染めたと?」
「はい」
「君はやはり子供だね。君は私の精神は大人だといったが今の君の発言は子供そのものだ。」
「ちがう、私は大人だ!」
「精神が子供な奴ほど自分を周囲に大人だと思ってもらいたがる。大人だって?そんなの自分の見立てでだろう。主観でしかない」
「そんなことはない!」
「精神年齢なんてそもそもどうやって判断するんだ?精神科医が診断でもして貴方の精神年齢は何歳ですとでも言うのか?それこそばからしい」
「ばからしくなんかない。今いった話を私に試してくれ。そうすれば私が大人だと証明される」
「……世の中にはな、そもそも大人なんて存在しないんだよ。陳腐で使いまわされた言い方だが、年をくった子供がいるだけだ。」
「詭弁だ。事実として大人の僕がここに存在する」
「詭弁ときたか。だがな本物の大人なんてものが存在すればそもそも犯罪なんぞ犯さないんじゃないか?」
「……そうかもしれませんね。ですがもう僕はこうでもするしか」
「俺はあんたと生まれが同じだ。だが、俺はあんたとは違う、自分は子供だと思う。世界には迷える子供しかいないと思う。だから俺は弁護士になった」
「若き天才弁護士ってわけですか。そんな方法もあったんですね。確かに貴方に比べたら私は子供かもしれません」
「若きってのは皮肉かい?まあ、話が横道にそれたがあんたは無罪だ。後はあんたの好きにするがいい。自分を有罪にするための控訴なんて認められるわけがない」
「どうしても無理なんですね?」
「そうだ」
「そうですか……。」
「これでたぶんさよならだ。残された命を大切に使うといい」
「それが大人の生き方なんでしょうか」
「正解かはわからないがそうだと信じて生きるしかないのさ」
「わかりました。そうします。苦労しますね、自分が子供だってのは」
「そうだな」
「そうですね、そもそも私達がこんな年に生まれなければ苦労しなかったのに」
「ああ、ほんと2月29日になんて生まれなければな」
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