「そんな、嘘だ。嘘だと言ってくれ」
「死は等しく全てのものに訪れるものです。仕方がないことです」
急な事態に混乱してる相手を私は落ち着かせようとしている。
「だって、そんな、こんないきなり」
「死を予測しようとしてもそれは困難なことです。これもまたしょうがないことです」
私はいつものように相手を諭そうとした
「なんで、どうして、どうしてこんな事に」
「こんな事態に陥った原因を考えてもそれは無駄な事です。それより重要なのを死をどうやって受け止めるかです」
「いやだ、いやだ、父さん、父さん、父さん」
彼は涙も鼻水もたらしながら肉親のことを呼んだ。
「死は愛し合う人たちに別離をもたらします。でもその愛し合う片割れが失われてもその人はそのもう一人の片割れの心の中で生き続けるのです。」
「父さん、父さん……」
彼は相変わらず肉親の名前を繰り返してる。
「だからそんなに悲しむのは止めましょう」
彼は黙り込んだ。
「さあ、それじゃあお別れをしましょう」
「…れたくない、そんなことあんたなんかに言われたくない!」
押し黙っていた彼が急に怒鳴った。
深い悲しみが激しい怒りに変わるのは良くある事だ。
これも私は仕事上よく経験済みのことだ。
「死の不条理さへの貴方の怒りはもっともです。ですが真実は誰が言っても真実です。それに私も次の仕事が控えてるんです。そろそろ納得していただけないでしょうか?」
「なんでだ?何で俺にそんなに納得させたがる?そんな事あんたにはどうでもいいことだろう?」
彼は自分の疑問を投げつけてきた。
「職務上のサービスというかケアみたいなもんですよ、本来は必要ないものかもしれませんができれば相手にこういった事態を納得してもらいたいので」
私は冷静に答える。
「それではお別れを言いましょう。貴方の愛するお父さんに」
彼は黙っている。
「どうしても嫌ですか?しかたないですね、それでは私が変わりにお別れの言葉を述べておきましょう」
彼は同じように黙っている。
「愛するお父さんさよならです、それから。」
私は言葉を続ける。
「愛する母さん、愛する奥さん、愛する子供達、君達ともさよならです」
そして乾いた発砲音がなった。
少し間をおいて私は携帯電話を取り本部と連絡をとった。
「仕事は片付いたよ。ただ残念だったが相手には今回も納得してもらえなかったよ。これも私の仕事の宿命かな?うん、ああ、引き続き次の仕事にかかるとするよ」
携帯電話を切り私は一人たそがれた。
「やっぱり納得してもらえるなんてことはないのかな?貴方が殺し屋の標的ですなんて事は」
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