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ショートストーリー2 作者:暗中茂作

第26回   星間旅行記6
その日、私は降り立った星の映画館を訪れていた。

色々な映画からホラー映画を選んでチケットを買って中に入った。

中は自分以外に客はなく、がらんとしていた。

一番スクリーンから離れた列の中央に座って私は映画を見始めた。

半分くらい経った頃、一瞬だけドアが開かれ後ろから光がさして、誰かが入ってきた。

「すみません、となりいいですか?」

一言断ってから彼女は俺の隣に座った。

映画館は真っ暗で彼女の容貌はよくわからなかった。

私は、どうぞ、と言った。

「真昼間からホラー映画を見るってのもなかなかいいもんですね」

彼女はそう語りかけてきた。

「私は実家暮らしで無職なんですけど、貴方はどうなんですか?外回りの営業の休憩とか?」

「いや、自分は星間旅行者なんですよ」

「へえ、そうなんですか。私、星間旅行者に会うの初めてなんですよ」

私の告白に彼女は興奮してるようだった。

「いや、まあ、そんな大したものじゃないですよ」

「星々をめぐるのって楽しいですか?」

「ちょっと一口では言い切れないですね」

「そうですか」

彼女は残念そうに答えた

十分、十五分ほど沈黙があっただろうか。

「この映画のモンスターみたいな生き物って存在すると思いますか?人の血だけを吸って生きる生物なんて存在するんですかね。」

彼女はまた質問をしてきた。

「前に行った星で大量の蚊に襲われたことならありますど、あれだけ大型の生き物では聞いた事ないですかね」

「そうですか。私いつも思うんですけど人間の血ってそれほど特別なもんなんですかね?人命は星より重いなんていいますけど星の重さには人間の重さも含まれるはずだからそんなのおかしいと思うんですよね」

「そうかもしれませんけど、ちょっと静かにしてもらっても構いませんかね。映画に集中したいんで」

私は続けざまに話される事に少しいらついていた。

「すみません、私ったら一方的にしゃべっちゃって」

「いえ、こちらこそ乱暴な言い方ですみません」

そしてまた少しの沈黙が訪れたがそれもすぐ破られた。

「マインドイーターって聞いた事ありますか?」

彼女は懲りずにまた語りかけてきた。

私は相手にせずに無視した。

「心を食べる者って意味なんですけど、ご存じないですか?」

私は黙っていた。

「人の血は特別じゃなくても、人の心ってたぶん特別なものだと私思うんですよ」

私は無視を決め込んだ。

「長い進化の過程で衝動的で動物的な本能だけではなく、人としての心を確立した。そうやって出来た心はやっぱり特別なものだと思うんですよ」

……。

「マインドイーターってね、その人間の心を読み取って食べちゃうんですよ」

……。

「たとえば何か楽しい感情や記憶を持った人がいるとしますね。そうするとそれを読み取ってマインドイーターは消化しちゃうんです」

……。

「心を食べられた方の人間はその感情や記憶を失ってしまうんです」

……。

「肉食動物は肉を主食としてますよね。肉食動物って名前なんだから当たり前ですが。でもそれがなぜかと言うとその方が草を食べるより効率がいいからなんですよ」

……。

「マインドイーターもそれと同じことなんですよ。自分でいろんな体験をして心を豊かにするより、すでにいろんな体験をした人の心を読み取って自分のものとした方がはるかに効率よくいろんな感情や記憶を自分のものにできるんですよ。そう例えばいろんな星に行ってさまざまな体験をした星間旅行者とか」

……、いや、そんなまさか。

「貴方、幼い頃につらい体験をしていますね」

……。

「貴方は自分にとってとても大切な人を失った」

……。

「その人は貴方と同じように星間旅行者だった」

……。

「その人の名前はエレゴラ、それであってますよねドクターさん」

私は驚愕した。

まさか、まさか……、そんなものが本当に実在するとは。

「貴方はもうそのつらい思い出から開放されてもいいはずです。私がその記憶を食べて差し上げますよ」

「いやだ、忘れたくない、つらい思い出でも忘れたくない、忘れたくない事なんだ!」

私は必死に叫んだ。

だがそれに反して意識はまどろんでいった。

気がついた時私は映画館の席にいた。

彼女の姿はなかった。

「……、覚えてる。エレゴラ」

私は昔の記憶をちゃんと覚えていた。

私は映画館を後にした。

宇宙船に戻るとオルドレイに眼鏡をかけていかなかった事を注意された。

前に遭難して眼鏡からの電波を探知して遭難してる場所を見つけたことをもう忘れたのかと。

でも私はそんな注意も耳に届かないほど困惑していた。

あれは結局なんだったんだろ。

それは今でもいまだにわからない。



――

私はいわゆる人が言うところのエスパーだ。

私の特技はテレパスとヒュプノシスだ。

ヒュプノシスとは催眠のことだ。

その日私はお気に入りのさびれた映画館の一番後ろの中央席に座ろうとした。

だがその日は先客がいた。

だから私はその特技で彼をからかってやった、いもしない怪物の話をして。

最後の方は少し悪趣味だったかもしれない。

おわびにヒュプノシスで彼のつらい記憶を消してやってもよかったのだが彼はそれを望まなかった。

だからそのままにしておいた。

私は今でも考えるあれはあれでよかったんだろうか?

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Novel Editor by BS CGI Rental
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