「ドクター、貴方にとって旅ってどんなものなのですか?」
「そうですね、日常、ですかね」
「そうですか、日常ですか」
「長距離の星間旅行の際はコールドスリープしていて、起きてる時は大体いつも毎回違う星にいるもんで」
「うらやましいかぎりですね」
「そうですか」
「自分も早く宇宙船を買える程のお金を貯めて色々な星を旅してみたいですね。そうして彼女の本のような体験記を書きたいんです」
「貴方は本当に彼女の本のファンなんですね。ごたぶんにももれず自分もそうですが」
「彼女の体験記は本当にすばらしい。賞賛の言葉がないくらいです」
「そうですね」
「事実は小説より奇なりという言葉があるように、現実はえてしてよく描かれた小説よりも面白いことがあると思います。それに現実で体験することでしか得られない感動といったものがあると思うんです」
「そうかもしれませんね」
「お話していただけて楽しかったです。もう会う機会もないでしょうがまた会いたいものですね」
「そうですね、では私はこれで」
「さようなら、よい旅を」
「はい、貴方も早く旅を送れることを祈ってます」
「ドクター、あれでよかったんですか?」
「なんだい、オルドレイ?」
「彼女の本についてですよ」
「ああ、そのことか」
「あれは本当は体験記じゃないなく想像力だけで描かれたものだと教えてあげなくてよかったんですか?」
「うーん、どうだろう。知ったらショックを受けるかもしれないとも思って黙ってたんだけど、案外知った方が喜んだかもしれないね。でも宇宙船を買うために必死で働いてるなんて聞いたら俺の口からは本当のことは言えないよ」
「そうですか」
「ところで彼女は今頃どうしてるんだろうね?」
「そうですね、どうしているんでしょうね。まだ小説を書いているんでしょうかね」
「きっとそうだと俺は思うよ」
「そうだといいですね」
「ところでオルドレイ、今話した一連の話についてなんだけどこういうのも事実は小説より奇なりっていうのかな?」
「そうかもしれませんね」
「それからさ、オルドレイ」
「僕たちのたびの体験記なんか出したら売れるかな?」
「うーん、前にも聞きましたがドクターの描写力では難しいと思いますよ」
「そっか、残念。んじゃま、また次の星に備えて眠るとするよ。ついたら起こしてね」
「はい、かしこまりました」
こうしてドクターはまた新たな星へと旅立ちました。
旅に憧れる青年のその後や小説を書いている彼女の話はまた次の機会に話しましょう。
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