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ショートストーリー2 作者:暗中茂作

第20回   星間旅行記
「着きましたね、ドクター」

「うん、ありがとう、オルドレイ」

ドクターと呼ばれた青年は宇宙船のマザーコンピューターのオルドレイに言葉を返した。

ドクターはきれいな透明感のある緑色の髪に同じく緑色の目をしていて、身の丈(みのたけ)は180センチほどで華奢(きゃしゃ)な体。

薄い青のジーンズをはいて紺(こん)の長袖に白い何か図形の模様のはいったTシャツを着ている。

「とりあえずは外に出て食事かな」

「その前に眼鏡かけるの忘れないでくださいね、ドクター」

「わかってるよ」

そういってドクターはふちのない透明なレンズの眼鏡をかけた。

これにはドクターが見ている映像とドクターの喋った(しゃべった)声、聞いてる音をオルドレイに送信する機能と、ドクターにオルドレイからの音声を伝える機能を持っている。

「じゃあ、行くとするか」

「はい、映像、音声ともにオッケーです」

ドクターは町の近くの草原に着陸した宇宙船から歩いて町に向かった。

町には青い屋根に白い壁の小さなレストランがあった。

ドクターがドアを開けるとドアについていた鐘がカランコロンと来客が来たのを伝えた。

すぐに店員がやってきた。

「お客様お一人ですか?喫煙席と禁煙席がございますがどちらになさいますか?」

「一人です、禁煙席で」

「ではお好きな席にご自由にお座りください」

ドクターは窓際の席に座るとそのメニューを見た。

「何を食べよう?久しぶりに肉でも食べようかな」

しかしドクターがメニューをめくってもめくっても載っているのは野菜料理ばかりだった。

ドクターは店員を呼んだ。

「すみません、この店って肉料理はないんですか?」

「申し訳ございません。あいにく当店はお野菜の料理のみとなっております」

店員が深々と頭を下げてから丁寧に答えた。

「そうなんですか。それじゃあしょうがないですね。案内しとってもらってなんですが他の店に行くとします」

そう言って席を立とうとしたドクターを店員が制した。

「おまちください。お客様」

「そう言われても僕は肉料理が食べたいので」

ドクターが申し訳なさそうに答える。

それに店員がしゃきっと答えた。

「他の店をお探していただいても無駄だと思います」

「この町には他にレストランがないとか?」

「いえ、何件かございます」

「ではなぜ探しても無駄だと」

ドクターが疑問に思って尋ねる。

「この町、この国、いえこの星で肉料理ををおだししているお店はございません」

「は?」

ドクターはあっけにとられて素っ頓狂(すっとんきょう)な声を出した。

気を取り直しておずおずと店員に尋ねる。

「あの、それって星全体で菜食主義をとっているってことですか?」

「はい、そのとおりです」

ドクターが最初のショックを引きずったまま少しボーっとしていると店員が話を続けた。

「この星には食肉用の動物はいません。お客様さえよければそのことについてご説明させていただきますが」

『ドクターその話聞いてみたいです』

話のやり取りを聞いていたオルドレイから注文がついた。

博士はそれに応じて、

「連れが、いや、あの、土産話になりそうなので教えてください」

と答えた。

「ではご説明いたしましょう。まずそもそものきっかけはある科学者の発見からでした。それまで動物の肉からしか取れないと思われていた人間の体を作るのに必要な栄養素がある植物から摂取できることが分かったのです。」

店員は話を続ける

「そこで動物の肉を食べるような野蛮な風習は捨て去ろうということになりました。その動きは徐々に広がり、まずこの国で動物の肉を食べるのが法律で禁止されました。そしてその法律は各国で採用されついには星全体でそうなったのです」

「そうですか、それでその法律のせいで肉料理は出せないんですね。納得しました」

そういって話を終わらせようとするドクターに店員が言った。

「いえ、その法律は今はもうありません」

話の流れが読めないドクターは怪訝そうに尋ねる。

「どういうことですか?」

「必要なくなったから廃止されたのです」

「必要なくなった?なぜですか?」

「この星にはある程度の知能を持った生き物は私達人間以外にいません。その他の動物はすべて私達の手によって殺されました」

ますます話が読めなくなったドクターの頭は混乱していた。

「本当にそれはどういう事ですか?話がぜんぜん見えてこないです。あなたは動物の肉を食べる必要がなくなったので、動物の肉を食べるのを禁止する法律が星に広まった。そうおっしゃいましたよね。それがどうして動物達を殺すことになったのですか?」

「動物愛護の観点からです」

店員はきっぱりと言った。

「知能を持った生き物が何かに食べられるためや利用されるために生まれてくるという鎖を断ち切るためです。昔はこの国も肉牛、乳牛、豚、食肉用の鶏、卵を産ませるための鶏などがいました。その動物達はすべて薬殺によりまったく苦しむことなく安楽死されました。まずそうしてすべての家畜をころしました。そうして次は野生生物を殺しました」

「ちょっとまってください。家畜はまだ分かるとしてもなぜ野生生物まで殺したんですか」

店員の話にドクターがわってはいる。

「人が猟でその動物を捕まえて食べる可能性があるのと、食い食われるという輪の中からその動物達を救い出すためです。野生動物の捕獲には賞金がかけられました。みなこぞって生まれてこなければよかった命を無に帰す為、躍起になって野生動物を捕まえました。ただ、中には悪人もいてわざわざ動物を繁殖させて生まれた動物で賞金を稼ぐようなやつもいました。そいつは警察に捕まって死刑になりました。それは当時のメディアでも報道されました。そんなこともありましたが10年前に最後の野生動物の一匹だったウサギが捕獲され、その後5年たっても野生動物が生存の情報がなかったためついに自分たちが偉業を成し遂げたことを確認しました」

「それで話はおしまいですか?」

長々と説明してくれた店員にドクターが尋ねる

「いえもう少しだけ続きます。あの写真をご覧ください」

ドクターは壁にかけられた写真に目をやった。

「あの虫は……」

「ご存知でしたか。今までその虫を食べていた野鳥がいなくなったためその虫が大量発生したんです。ですが私達はその虫に有効な薬品を開発しました。まもなくこの虫も駆除されることでしょう。これでお話はおしまいです」

「そうですか、ありがとうございました。それじゃあ、僕はこれで」

「お話はおしまいですが、どうですか、やはりここでお食事していかれませんか?先ほど説明した成分を含む豆なんてどうでしょう。臭いがちょっときつめで糸を引いていますがそれは発酵してるからで」

「おきづかい、どうも。ですが僕はこれでおいとましようと思います。では、また」

長い会話を終えて空腹のままドクターは宇宙船に戻った。

「あれ食べたかったなー」

宇宙船に戻ったドクターは一人つぶやいていた。

「肉料理ですか?まだ冷蔵庫に冷凍の肉貯蔵してあるじゃないですか」

オルドレイがその問いかけに答える。

「いや、そうじゃなくて」

「なんです?」

「写真の虫、あれ佃煮(つくだに)にするとうまいんだけどなー。薬品まいてるんじゃしょうがないよなー」

「……、ドクターもなかなか悪食ですね」

「なんか言ったか?オルドレイ」

「いえなにも」

「よし、じゃあ次の星に行くとるするか」

そうして宇宙船はその星を後にした。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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